40年前の本

odd-hatch*1田中克彦「ことばと国家」(岩波新書) 国家は言葉を管理し同化と民族差別を助長する」https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2023/04/04/110723


1981年に刊行された田中克彦*2『ことばと国家』について。『ことばと国家』は言語とナショナリズムについての省察としては、1970年代に出た『言語の思想』や『言語からみた民族と国家』とともに、先駆的な業績であるといえる。また、ヨーロッパにおいて実際にどんな言語が存在しているのかを記述した『現代ヨーロッパの言語』もこの本の関連図書といえるだろう。
さて、はっきり言って、田中克彦は嫌いだ。勿論、その反文字的なイデオロギーが気に食わないということはあるのだけれど、それ以上(以前)として、この本だったかほかのテクストだったかは忘れたけれど、「母語」を巡る記述に対して、キモい! と感じたのだった。それと関連して、田中が前提とする民衆/エリートという二元論を素朴に肯定することは難しいのだ。21世紀になって、所謂先進国においても、ポピュリズムの脅威というのが語られている。ただ、それは決して新しいものではないだろう。国民国家を創設せんとしたナショナリズムを情念の準位において支え・突き動かしていたのは、(殆ど屡々外来性に結びつけられている)エリートに反発するポピュリズム的なパッションではなかっただろうか。或いは、「母語」を超えた横のコミュニティを存立させていた所謂リンガ・フランカの抑圧。その反文字的なイデオロギーといったのだが、これについて、田中は決して異端ではなく、近代言語学の正統に沿っているらしいと気づいたのは少し後のこと(例えば『言語学とは何か』)。