「リスク」かコストか

承前*1

堀井恵里子*2「そこが聞きたい 結婚しない若者の増加 お茶の水女子大学教授 永瀬伸子氏」『毎日新聞』2023年1月10日


厚生労働省の「出生動向基本調査」(2021年度)では、男性の17.3%、女性の14.6%が「一生結婚するつもりはない」と回答した。これは過去最多であった。「出生動向基本調査」に関する労働経済学者の永瀬伸子さんへのインタヴュー記事。


未婚女性の理想のライフコースは「子育て後に再就職」とする人が26・1%に減る一方、「育児期を含めて仕事と家庭を両立」という人が34%に増えて逆転した。未婚男性が将来のパートナーに望むライフコースも同じ傾向だ。その昔は専業主婦志向で、最近さらに大きく変化している。

若い人は共働きで、家事・育児も分担するという」希望が多いが、現実とのギャップがある。総務省の社会生活基本調査では、6歳未満の子どもがいる家庭で、妻の家事・育児時間は7時間を超えるが、夫は2時間未満にとどまった。結婚女性でパートなどとして働く人は増えても、男女の収入の差は大きいままだ。男性が長く働かないと生活が成り立たない状況にあるのではないかと思う。
「非婚化志向や子どもを持つことへのためらい」の「原因」――

背景には、若者で非正規労働者が増えていることがある。総務省労働力調査などを基に集計したところ、18年時点で、勤務している高卒の未婚女性のうち非正規は4割を超える。大卒未婚女性と高卒男性で約2割、大卒男性でも約1割。雇用が不安定で家族も持てなくなって来ているのではないか。非正規で働く人がキャリアを構築できるように支援しなければならない。
「子育てをリスクとみる考え方もあるようです」という問いかけに、

わっしが教えている大学生も「簡単に子どもを持てない」と言う。ニュースで子育ての大変さを耳にしているからだ。ただ、日本人の幸福感の分析をしたところ、配偶者がいる人や子どもがいる人は、より幸福度が高いという結果が出た。結婚や子育ての良さを伝えていくことも大切なのではないか。
この答えの部分で語られているのは「リスク」ではなくコストだろう。東京まで京都まで新幹線で行く場合、然るべき運賃や特急料金がかかるというのはコストの話。その新幹線が脱線するのかしないのかというのはリスクの話。