Chambre noire

堀江敏幸「光はノックせずに入ってくる」(in 『戸惑う窓』*1、pp.24-31)から。


カメラの暗箱は、仏語で「暗い部屋」と表現する。写真家は部屋のなかにじっとうずくまって、光の到来を待つ。あるいは光を瞬時迎え入れる。そのために必要な開口部は、ほとんど窓に等しい。暗い部屋に光を導き入れれば、それは「明るい部屋」に変貌し、小さな直方体の内部で明は暗となって、暗は明となる。ときにはその明るい壁面や天井に黒い影だけが映し出され、震えたり伸び縮みしたりしながら、ふたたび部屋から消えていく。窓はシャッターとなって光を吸い込み、影絵を生み出す映写機となるだろう。(p.25)
ところで、cameraを日本語に訳せと言われれば、誰もが写真機と訳すだろう。部屋と訳す人はあまりいないだろう。その写真機としてのcameraだけれど、これはcamera obscura(暗い部屋)の略語ということでいいのだろうか?