山本文緒

島本理生*1「本を開いた瞬間が出会い」『毎日新聞』2021年12月19日


この年の10月に急逝した山本文緒*2のことが取り上げられている。
山本は「ミステリーではないが、これほど鮮やかに騙されるなんて、と思わせる物語を書く作家」だったという。


特に『恋愛中毒』は強烈だった。お弁当屋で働く水無月が、女癖の悪い作家・創路に気に入られて泥沼の恋愛に堕ちていく話……と思った最中の、奇妙な違和感からの後半は衝撃だった。
そして最新短編集が『ばにらさま』だ。可愛いふりをして全く油断できないタイトルに、私は溢れんばかりの毒と魅力を感じた。そして「わたしは大丈夫」等の短編に、清々しいくらいにやられた。
山本作品の強いところは、一件、共感されないような登場人物こそを徹底的に書くところだ。ただし彼らは、それ相応の結末を迎える。なにをしてもやり直せるほど世界は都合よくできていない。
一方で、自業自得だったら泣いてはいけないのか、ということに気付かされる。悪意や嫉妬や自堕落で自らを貶めた人間だって、つらい、と一生言ったらいけないのは苦しすぎる。だからこそ、小説によって言葉にされることによって救われるのだ。山本作品は容赦ないが、同時に深く優しい。