「アンバランス」もいいところ

荒川洋治*1「精妙で大胆な心理小説」『毎日新聞』2021年5月15日


ヘンリー・ジェイムズ*2『デイジー・ミラー』の書評。
米国人でありながら瑞西で育った「ウィンターボーン」がジュネーヴで「観光に来たアメリカ娘アニー・ミラー(愛称デイジー)」に一目惚れをしてしまうという話。


この心理小説は、青年*3の内部を細密精緻に描写するものの、デイジーの内部を照らすことは、ついになかったと見ていいのだろう。一方に傾くとは、まことにアンバランス。前例のない、大胆きわまる手法だ。だが彼女の内側が見ないだけに、その姿はいつまでも胸にとどまることになるのだ。それにしてもデイジー・ミラーは、どういう人たっだのだろう。そして人は、どこまで人について考えることができるのだろうか。そんな思いへと、導く。