「距離」と「近さ」

マルティン・ハイデガー「物」(森一郎*1訳、、森一郎編『技術とは何だろうか』、pp.15-60)


この講演の冒頭、ハイデガーは「時間上、空間上の距離」の「収縮」を語っている。「飛行機」、「ラジオ放送」、「映画」、「テレビ」(p.16)。


しかしながら、距離という距離をあわただしく除去したところで、近さは決して生じません。というのも、近さなるものは、わずかな分量の距離というのとは別物だからです。映画の映像やラジオの音声によって、間隔上は私たちに対してこのうえなくわずかな距離であるものでも、私たちには遠いままであったりします。間隔上は見渡すことができないほど遠く隔たったものが、私たちには近いものであったりもします。距離が小さいことが、それだけでもう近さというわけではありません。距離が大きいからといって、それだけではまだ遠さではありません。(pp.16-17)