- 作者: 保坂和志
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2012/12/05
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 6回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
保坂和志*1「言葉の外へ――文庫まえがき」(in 『言葉の外へ』、pp.1-15)から。
「最近、幼稚園にいた頃から思春期くらいまでのことを思い返すことが多い」。この作品化が『あさつゆ通信』。多分。
「小説家は言葉のプロだから」という言い方が嫌いだ。この言い方は言葉というものの拘束力とか強制力とか、あるいは言葉で名指したものの外を排除する力とかそういうものに対して無関心すぎる。
私はいろいろな理由から最近、幼稚園にいた頃から思春期くらいまでのことを思い返すことが多いのだが、言葉とのある関係の記憶が出てくると、自由に動いていた体を肩の上から手を置かれて無理矢理押さえつけられたときのように体が抵抗し出す感じがする。
「言葉がなければ伝えることができない」とか「言葉がなければ残すことができない」というのは、だいいち本当か。私は子どものときから今にいたるまでずうっとそうなのだが、一生懸命しゃべると、
「もっとわかるようにしゃべってくれ。」
と言われる。それはおかしい。こっちは全力をこめて。全身を使って。伝えたいことを言葉と声と動作で発したのだ。なぜそれに対して相手は「わかる/わからない」という、ふんぞり返って目の前の人間を判定するようなことを言うのか。
目の前で何かが起きたり、目の前に風景が広がったりしているとき、
「もっとわかるように見せてくれ」
と言わないように、全力をこめて伝えようとしている人間はそれ自体が現象なのだ。現象は理解するものではなく、それに立ち合って記憶にとどめるものだ。
小説家が小説を書くということは、その小説によって、「理解する」とか「わかる」ということが頭の一部分しか使わない、浅はかなことだということを身に染みるというか、それが前提としてある。もしそれだけを目的として小説を書いたとしたら、小説とはなんともみみっちいものになるが、前提としてはそれがあるから、読み終わった小説を言葉によって説明しようとしても、それはもう全然その小説じゃない。
音楽で楽器が鳴らす音、絵の線や色、彫刻の素材の質感や形、ダンスの動きやダンサーの体形。小説における言葉はそういうもので、何かを説明して伝えるためにあるのではない。(後略)(pp.1-2)
- 作者: 保坂和志
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2017/11/22
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (1件) を見る
*1:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050630 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050705 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050722 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060428/1146248997 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060609/1149821214 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060728/1154089615 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061207/1165514769 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070502/1178036988 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070610/1181448905 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070709/1183953278 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070930/1191118474 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071002/1191262060 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071016/1192508056 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080109/1199885241 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080215/1203101413 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080403/1207229772 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080831/1220155395 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080911/1221141723 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080913/1221274270 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081203/1228280406 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090215/1234633284 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091029/1256816455 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100805/1280971666 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101019/1287460367 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101118/1290059134 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110104/1294114040 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110131/1296441629 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110724/1311478161 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110813/1313262503 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130626/1372259831 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131106/1383697995 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20171212/1513047582 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20171218/1513571599 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180920/1537404582