「小説」(Apres Kundera)

小説の技法 (岩波文庫)

小説の技法 (岩波文庫)

ミラン・クンデラ*1「六十九語」(in 『小説の技法』[西永良成訳]岩波文庫、pp.165-215)


抜書き。


小説roman 作者が実験的な自我(人物)を通して実存のいくつかのテーマをとことん検討する、散文の大形式。(p.203)

小説roman(および詩poesie) 一八五七年、十九世紀のもっとも重要な年。『悪の華*2、抒情詩が固有の領域、その本質を発見する。『ボヴァリー夫人*3、小説が初めて詩の最高の要請(「何よりも美を探求する」意図、個別の言葉の重要性、テクストの強烈なメロディー、どんな細部にも適用される独創性の至上命令)を引き受ける用意をする。一八五七年以後、小説の歴史はポエジーとなった小説の歴史になるだろう。しかしポエジーの要請を引き受けるとは、小説を抒情化する(小説の本質的なイロニーを断念し、外部の世界から目をそむけ、小説を個人的な告白に変え、小説を装飾過多にする)こととはまったくちがう。詩人となった小説家のうちもっとも偉大な者たち、フローベールジョイスカフカゴンブロヴィッチらは猛烈に反抒情的だった。小説とはすなわち反抒情的なポエジーのことだ。(p.204)
悪の華 (新潮文庫)

悪の華 (新潮文庫)

ボヴァリー夫人 (上) (岩波文庫)

ボヴァリー夫人 (上) (岩波文庫)

ボヴァリー夫人 (下) (岩波文庫)

ボヴァリー夫人 (下) (岩波文庫)

また、清水真木『感情とは何か』(pp.64-65)で展開された「小説」論*4とも比較されたし。