2つの「時間」

アリス・アンブローズ編『ウィトゲンシュタインの講義 ケンブリッジ 1932-1935年』第一部「哲学 一九三二―三三年」(野矢茂樹訳)*1から。


われわれはここに、できごとに対する互いに独立な二つの順序をもつ。(1)われわれの記憶におけるできごとの順序。これを記憶時間と呼ぼう。(2)いろいろな人に尋ねることによって情報が得られる順序、すなわち、五時―四時―三時[といった時刻系列で表されるような順序]*2。これを情報時間と呼ぼう。情報時間においては、ある特定の日との関連で過去と未来があることになろう。さて、もし諸君が情報の順序は記憶時間であると言いたいならば、そう言うこともできよう。そして情報時間と記憶時間の両方について語ろうとするのであれば、諸君は[情報時間における]過去[のできごと]を[記憶時間における過去のできごととして]覚えているということができる。[同様にして]もし諸君が情報時間では未来であるようなできごとを覚えているのであれば、「私は未来を覚えている」と言うことができるだろう。(第14節、pp.73-74)