「ポンキッキ」から「しまじろう」へ

真貝友香「こどもの認知発達のスペシャリスト沢井佳子先生に聞く「発達心理学」の話」https://www.huffingtonpost.jp/laxic/child-development_a_23564686/


発達心理学者の沢井佳子さん(静岡大学)へのインタヴュー。
沢井さんはTVの幼児教育番組の制作に深く関わっている;


学部卒業後は、お茶の水女子大の大学院に進み、修士課程を終えたあと、師事していた藤永保先生が監修をなさっていた『ひらけ!ポンキッキ*1の制作に、心理学スタッフとして毎週の会議に参加し、番組作りや視聴調査に関わることになったんです。1984年、私が博士課程の学生のころでした。

フジテレビは、1970年代初めには「母と子のフジテレビ」と呼ばれていたほど、家庭の教育をテーマとした番組が多かったんです。1973年に始まったポンキッキは、その中でも、子どもの知能の発達に着目した、まったく新しい教育番組だったんですよ。


「子どもの知能の発達」に着目した番組制作のムーブメントには、アメリカで『セサミストリート*2が大ヒットしていたという背景があるんです。1960年代まで、子ども向けの番組は15分番組が主流でした。子どもの集中力の限界が15分程度だと思われていたからです。が、新しいセサミは1時間番組で画期的でした。なぜ、子どもの注意を1時間もひきつけられるのか? 子どもがテレビ視聴から、何を記憶しているかを調べると、それはコマーシャルでした。コマーシャルソングならすぐに覚えて歌ってしまう、そこを逆手に取って、教育的な内容を細切れに分けて、面白くつなげた1時間番組にしようと、発達心理学の知見を入れて作られたのがセサミでした。その結果、セサミは世界的に大ヒットしていますよね。

ポンキッキもそうした、革新的な教育番組の潮流に大きく刺激を受け、同様のチャンレジをすべく、1971年ころに、発達心理学の専門家が番組企画のために集められました。

4人の番組監修者は、東大の東洋先生、お茶の水女子大の藤永保先生、東京女子大の新田倫義先生、国立教育研究所の永野重史先生らで、日本の心理学界の中心的な先生方でした。この4人の先生方のカンカンガクガクの議論を経て、番組のカリキュラムと骨格が作られたわけです。番組開始から11年を経た1984年に、大学院生であった私は、番組編成の会議に呼ばれ、「子どもがどう認識し、学習するのか?」「論理的判断はどのようにできるのだろう?」という問題を考えながら、ディレクターらと一緒に知恵を出し合う日々を送りました。このように、番組の企画において、心理学監修が緻密になされていたのは、「ひらけ!ポンキッキ」までであり、その後の「ポンキッキーズ」は、かなりバラエティー番組化して、教育番組としての骨格がゆるんでいってしまいました。

1988年の、「ひらけ!ポンキッキ」の心理学監修体制の終了後は、私は出産をして男の子の母になり、大学の講師も務めていました。その後2000年にベネッセのしまじろう*3のビデオを、ポンキッキの元ディレクターらが制作することになったので、監修として協力してほしいと依頼され、再び映像関連の監修を務めることになりました。いわば、ガチャピンの紹介でしまじろうのお世話をするようになったのですが、以来、今世紀からベネッセの幼児教育シリーズ「こどもちゃれんじ」の制作に監修者としてたずさわることになりました。ビデオ映像のほか、絵本やワークブック、教育玩具の設計、アプリなどのコンテンツ開発もずっと続けています。

とりわけ、2012年から放送を開始した幼児教育番組「しまじろうのわお!」(テレビ東京系列)は、立ち上げの企画から私が監修者として携わった番組です。 「いのち」をテーマに、子どもに「考える機会」を多様に与える、今までにない幼児向け教育番組なんです。ドイツのワールドメディアフェスティバルで教育部門の大賞をいただいたほか、国際エミー賞の幼児向け番組部門にもノミネートされるなど、国際的に高い評価をいただいたのは、とても嬉しいことでした。「しまじろうのわお!」は、大人の方々にも、お子さまとご一緒に、ご覧いただきたいと願っています。