自称「犯人」

以前も、私が〈三億円事件〉の実行犯でしたという人が『初恋』という小説を書き、著者=犯人を宮崎あおいが演じて、映画化されたということがあった(あと、小出恵介も出演していた)*1。今年になって、また別の「犯人」が登場。
『リアルライフ』の記事;


三億円事件”の手記は本物?真贋を巡るネット上のさまざまな指摘

2018年10月7日 18時40分 リアルライブ


 1968年に東京都府中市で発生した三億円事件に関する、ある文章がここ数日ネット上で話題になっている。

 事の発端となったのは、小説投稿サイト『小説家になろう』に8月8日から投稿されていた『府中三億円事件を計画・実行したのは私です。』という手記。作者は「白田」という人物で、手記は9月23日に完結。「三億円事件の犯人は自分である」とし、事件の経緯と真相を明かしている。手記は、自身が息子に事件の真相を打ち明けたことが執筆のきっかけだといい、息子に説得されて真実を明らかにする決意を固めたとつづっていた。

 公開から徐々にネット上で話題になっていたが、手記が完結した後にはネットニュースなどでも取り上げられ、手記の存在が広く知られるように。その真偽をめぐってさまざまな議論が交わされている。手記では、公開されていない情報として「警察手帳を犯行現場に置いてきた」とあった。手記を“真実”と考えるネットユーザーからは、「公開されない情報知ってるってことは本物の可能性ある!」「描写がリアルすぎて本当としか思えない」と判断。「たとえニセモノだとしても文章でこれだけ読ませるのはすごい」と絶賛する声が噴出した。

 しかし、“偽物”と考えるネットユーザーからは、「小説風っていうところに現実味を感じられない」「文体が若すぎて団塊世代の人とは思えない」「会話も若くてラノベっぽいな。創作としか思えない」といった指摘が相次いでいるほか、「ただワナビ(小説家志望者)が話題を作りたかっただけじゃないか?」という声もある。

 時効が成立した今は、警察による捜査も行われず、真相を解明する手立てはない。ただ、三億円事件は今でも小説や映画、ドラマでも多く扱われ、未解決事件の中でも最も注目後が高い事件のひとつ。時効成立以来、何人もの“自称犯人”が現れたとはいえ、クオリティの高い文章は多くのネットユーザーにロマンを与えたようだ。
http://news.livedoor.com/article/detail/15412823/

島村優「アナタは本人なんですか?自称「三億円事件の犯人」に直接取材してみた」http://blogos.com/article/332946/


その「白田」氏に対する「メールインタビュー」。
最初に引用した記事の中に、「文体が若すぎて団塊世代の人とは思えない」とか「会話も若くてラノベっぽいな。創作としか思えない」という意見が引かれているけど、少なくともこうした疑問は「白田」氏の答えによってかなり氷解しているんじゃないだろうか。つまり、正確に言うと、問題のテクストは「白田」氏とその息子の共著である。


発表の仕方や書き方は全て息子に一任しておりました。私がメカに疎く、文字を入力するのが苦手だからです。私の手書きの文章を読み、それを息子が読みやすいように改編して発表しております。

そのままの文面だと読者の方に分かりづらいと思ったのでしょう。私も息子の判断には賛成です。

要するに、「団塊世代」じゃなくて団塊ジュニアの「文体」だったわけだろう。また、息子は「カミナリ族」を知らずに「暴走族」に直しているようだ。
面白かったのは、文学や音楽に関する問答;

——当時、どういった文学を読んでいましたか?すぐに思い出される作品などがあれば教えてください。


文学でいえば、どちらかというと推理物を読んでいました。土屋隆夫という作家はご存知でしょうか?よく読んでいました。

話は少しそれますが、音楽はロカビリーを好んで聞いていました。若い方はご存知ないかもしれません。あの頃ちょうどロカビリーブームというものがあったのです。

——ロカビリーは1960年代前半にブームが下火になったのではないですか?

いえいえ、私の若い頃は流行っていましたよ。下火の実感はありませんでしたが…。音楽の歴史から言えばそう表現されるかもしれませんね。

土屋隆夫という作家は寡作であったけれど、コアなミステリー・ファンの評価は高かった筈。
「ロカビリー」に関しては、「あの頃」や「私の若い頃」が何時を指すのかが問題だろう。1968年だと、やはり時代はグループ・サウンズということになるだろう。ロカビリーはその一世代前という感じがする。具体的な名前を挙げると、山下敬二郎ミッキー・カーチス、平尾昌晃。平尾昌晃がデビューしたのは1958年のこと*2内田裕也も最初は「ロカビリー」だった筈。どう考えても、1968年には「ロカビリー」は既に流行りではなかった。「白田」氏が団塊だとすると、ロカビリーが流行ったのは小学生から中学生にかけて、ということになる。ただ、老人の回想で、小学生時代のことを「私の若い頃」と表現するのかどうか。客観的に若かったわけだけど、「若い頃」は思春期(青年期)のために取っておいて、小学生時代は子どもの頃というような表現を使うと思う(私の場合は)。もう一つの可能性は、グループ・サウンズのことを「ロカビリー」だと思い込んでいるんじゃないかということ。インタヴュアが具体的には?と訊いたら、タイガースとかスパイダースといった名前が出てきたりして。
『府中三億円事件を計画・実行したのは私です。』、今年の12月にポプラ社から「小説」として上梓されるという。映画化はされるのだろうか。