- 作者: 河合隼雄
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1997/05/20
- メディア: ハードカバー
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人間にとって、「身体」というのは非常に不思議なものである。それは自分のものであるが、自分のままにならない部分がたくさんある。そして、それは人間の喜怒哀楽に密接に関連している。何よりも大切なことは、それに「死」が訪れることを人間は知っており、それに対しては絶対に抗し難い。
避けられない死に対して、人間はその長い歴史のなかで、たましいの永続性、美や真理の永続性、あるいは「家」の永続性などをかかげて対抗してきたが、やはり市が恐ろしいことには変わりはなく、それと直接的に結びついている「身体」というのが、時におぞましく思われたり、否定したくなったりして、どこかで「悪」と結びついてくる傾向がある。
ここで、精神と身体という区分を明確にし、精神を善と考えると、身体は悪ということになる。特に、身体は食欲、性欲など精神によってコントロールするのが難しいことに関係するので、余計に悪者扱いされる。それに子どもの体験としては、大小便、唾、鼻汁、など自分の体から出てきたものが「汚い」として忌避されるのは*2、印象的なことであるに違いない。それを少し推しすすめると、それらを排出してくる体そのものも「汚い」、あるいは「悪」に結びつくことになる。それで何とか自分の身体を守るために、大小便のコントロールとか、身体を清潔に保つことなどが、子どもにとって大切な仕事とされるようになる。もちろん、子供は成長に従って、自分の育つ文化的パターンを身につけていくのだが、心の底の方では、自分の身体に関する不可解でアンビバレントな感情を持ち続けていくと思われる。(pp.104-105)