「最低賃金」

反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書)

反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書)

湯浅誠*1『反貧困−−「すべり台社会」からの脱出』から、抜書き。


日本の最低賃金*2が低すぎることは、二〇〇七年に大きな社会問題の一つになった。日本の場合、最低賃金は以前から労働者の家計(生計費)を支えるに足るものではなかった。最低賃金が想定していたのは、主婦パート・学生アルバイトのいわば「お小遣い」であり、それは老齢年金が高齢者の「お小遣い」だったのと対応していた。主婦・学生は夫または親の庇護下で生計を立てるべきもの、高齢者は子どもまたはそれまでの資産で生計を立てるべきもの、というのが日本の「常識」であり、それゆえに、以前から夫に頼れない母子世帯、親に頼れないフリーター、子に頼れない高齢者は数多く貧困化していた。
しかし、一九九〇年代を通じて雇用が融解する中で非正規労働が爆発的に増え、パート・アルバイトなどの非正規労働で家計を支えざるを得ない世帯が、一般世帯の中にも広がってきた。これを私は「一般世帯の母子世帯化」と呼んでいる。深夜のコンビニ・牛丼屋・立ち食いそば屋・ファーストフード店でのアルバイトは、私が学生だった二〇年ほど前には学生が小遣い稼ぎにやるものと相場が決まっていたが、今では四〇代、五〇代の「働き盛り」の男女が若者に混じって働く光景がありふれたものになった。(p.185)