- 作者: 池内了
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/04/22
- メディア: 新書
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この本の特徴は、「疑似科学」の分類学を試みていることだろう。著者によって、所謂「疑似科学」は大きく3つのカテゴリーに分けられる(「第一種疑似科学」、「第二種疑似科学」、「第三種疑似科学」)。
はじめに
第1章 科学の時代の非合理主義――第一種疑似科学
第2章 科学の悪用・乱用――第二種疑似科学
第3章 疑似科学はなぜはびこるか
第4章 科学が不得手とする問題――第三種疑似科学
終章 疑似科学の処方箋
参考文献
あとがき
先ず、「第一種疑似科学」とは、「現在当面する難問を解決したい、未来がどうなるか知りたい、そんな人間の心理(欲望)につけ込み、科学的根拠のない言説によって人に暗示を与えるもの」であるという(p.v)。例えば、「占い」や「超能力」など。著者によれば、「血液型」言説*2はこの「第一種」の「占い系」に入る(pp.5-6)。
「第二種疑似科学」とは「科学を援用・乱用・誤用・悪用したもので、科学的装いをしていながらその実体がないもの」(p.v)。さらに、(a)「科学的に確立した法則に反しているにもかかわらず、それが正しい主張であるかのように見せかけている言説」、(b)「科学的根拠が不明であるにもかかわらず、あたかも根拠があるような言説でビジネスの種となっているもの」、(c)「確率や統計を巧みに利用して、ある種の意見が正しいと思わせる言説」に分けられる(p.vi)。(a)の典型は例えば、「ゲーム脳」*3や「水からの伝言」*4(pp.51-52)。また、(b)の例としては、「マイナスイオン」(pp.68-69)や「活性酵素」。(c)は例えば疑似相関の問題を含んでいる。また、「第二種疑似科学」が信憑性を獲得する根拠としての「プラシーボ効果」*5と「ホーソン効果」が挙げられている(pp.64-67)。
「第三種疑似科学」とは「「複雑系」であるがゆえに科学的に証明しづらい問題について、真の原因の所在を曖昧にする言説で、疑似科学と真正科学のグレーゾーンに属するもの」だという(p.vi)。別の表現を使うと、「複雑系に関わる問題で、それを要素還元主義の考え方で理解しようとすることからくる誤解・誤認・悪用・誤用など」で、「要素に分解してもわからないことをもって、「科学的根拠なし」と断定したり、要素がプラスにもマイナスにもはたらくことをもって「どちらとも言えない」と不可知論に持ち込む手口」ということになる(p.123)。
また、「未熟科学であるにもかかわらずあたかも確立した科学であるかのように装って人々に誤解を与える」問題が「地震予知」を例にして論じられている(pp.152-154)。ただ、「地震予知」の「疑似科学」性というのは「未熟」ということでは説明がつかないだろう。それは多分具体的な出来事は科学(理論)の射程外だということを隠蔽しているからなのだろう。科学(理論)が関わるのは、具体的な出来事ではなく類型(type)であり、科学が言明できるのは、或る特定の変数(条件)が或る特定の状態にある場合にはその類型の現象が或る特定の確率で生起する可能性があるということであり、近未来の具体的な日時に具体的な場所で地震が起きるという仕方で、未来の出来事を予め知ることはできない。科学の射程外の具体的な出来事に学問的に向き合うことができるのは、(既に起こってしまったという意味での)過去の出来事としてのみだろう。歴史学や進化論の対象は科学の対象と違って、再現可能性を持たない。ヒトという種の出現にしても、仏蘭西革命にしても、明治維新にしても、みな歴史上1回きりの唯一無二の出来事であって、実験的に再現してみることなんてできない。非―科学であるとはいっても、歴史学や進化論が真/偽や正/誤の問題を免れているわけではない。逆に、常に事実の誤認や捏造(歴史修正主義)、解釈の適切性(不適切性)が問われている。科学/疑似科学という対立の外に、歴史や進化を包含した知の領域を確保しなければならないとは思っているのだが。
*1:Mnetioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180218/1518940710
*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071025/1193305401 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090225/1235584044 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090304/1236132818 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090308/1236529774 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090312/1236788552 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090507/1241664621 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090512/1242089836 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091204/1259925249 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091219/1261202341 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100227/1267241373 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110715/1310702140 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110823/1314128889 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120515/1337048270 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130419/1366385172
*3:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060116/1137440431 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060308/1141789582 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060412/1144809567 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080203/1202054628 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080710/1215616507 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080726/1217051072 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100110/1263129732 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120507/1336396198 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131120/1384957511 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150521/1432228524
*4:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061118/1163838464 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070714/1184436447 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080112/1200165144 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080115/1200402676 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080203/1202054628 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080206/1202274021 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080220/1203523922 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080520/1211302447 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090630/1246383965 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100223/1266896359 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100831/1283268700 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101123/1290447049 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110531/1306811725 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120504/1336116305 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141023/1414037159 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170822/1503412106 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170906/1504675450
*5:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161211/1481482837