重慶詣での学者たち(メモ)

承前*1

栄剣「奔向重慶的学者們(上)」http://www.my1510.cn/article.php?id=76559
栄剣「奔向重慶的学者們(下)」http://www.my1510.cn/article.php?id=76560


所謂〈重慶問題〉を巡って、栄剣という人の「奔向重慶的学者們」というテクストがかなり幅広く読まれていることに気づいた。上に掲げたのは「絶不君」という人のblogに転載されたもの*2。ちょっと検索をかけてみると、30以上のblogや掲示板に転載されている。
重慶市に詣でて、薄煕来治下の重慶の市政をよいしょする言説を生産した〈新左派〉知識人に対する批判*3。批判されているのは先ず〈新左派〉の中心人物(「新左派的領軍人物」)である崔之元(清華大学)。次いで同じく清華大学の李希光(メディア論)。香港中文大学の王紹光*4。王氏によれば、重慶は中国社会主義3.0」! さらに「三農問題」の研究者温鉄軍。『中国震撼』の著者張威為。経済学者の楊魯軍。在米華人ではバークレーの黄宗智とコロンビア大学の張旭東*5。張氏は「重慶大学人文社会科学高等研究院」の「院長」を引き受けている。
重慶問題の思想史的な意味のひとつは、共産党内や官界を中心に棲息する「老左派」、アカデミックな世界の「新左派」、インターネットを中心に棲息する(そして日本の熱湯浴に対応するであろう)「毛左」が「重慶」という鍵言葉の下に結集してしまったことである。
同じ栄剣氏の


重慶的神化與祛魅」http://blog.renren.com/share/458781444/13287869898?from=0101010202&ref=minifeed&sfet=102&fin=11&ff_id=458781444 *6


こちらの方は「重慶事変」つまり薄煕来失脚事件を「反革命政変」だと批判する「毛左」、また張宏良*7、司馬南、孔慶東*8などの「毛左」寄りの知識人に焦点を当てたテクスト。上で、「毛左」を日本でいえば熱湯浴に対応すると書いたが、「毛左」は〈薄煕来信者〉でもあり、その意味では「小沢信者」やハシストに対応するだろうか。「毛左」を批判するためには、社会主義共産主義運動(思想)の歴史を遡りながら、「個人崇拝」、指導者神格化を基礎から批判することが不可避となる。ところで、「毛左」の言説の中で、「道統」という儒家用語が使われていることが興味深かった。司馬南によると、中国における社会主義の「道統」は文革以後に「強制」的に断たれてしまい、今やその「道統」を保っているのは、国家としては北朝鮮のみ。中国においては、ようやく重慶においてのみ「道統」が「恢復」された。
関連のテクストとして、



程映虹「対留美政治学者的解剖」http://www.yhcqw.com/bbs/dispbbs.asp?boardid=12&id=37989
徐賁*9「有利可図的”有機知識分子”」http://blog.sina.com.cn/s/blog_4cacf1f30102dxrf.html


も参照のこと。
それから、「国家主義」との関係を巡っての「新左派」に対する最近の批判として、


馬立誠『当代中国八種社会思潮』社会科学文献出版社、2012*10
許紀霖『当代中国的啓蒙與反啓蒙』社会科学文献出版社、2011 *11
黄暁峰、曹柳蔦「徐友漁談三十年来的社会思潮」『上海書評』2011年2月27日、pp.2-3 *12


をマークしておく。

*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120501/1335892449

*2:そもそもは『共識網』というサイトに掲載されたものらしい。http://www.21ccom.net/articles/zgyj/gqmq/2012/0428/58663.html http://www.21ccom.net/articles/zgyj/gqmq/2012/0428/58663_2.html

*3:ただし著者は〈新左派〉の出発点、或いは中国思想史上の意義について全面的に否定しているわけではない。

*4:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080912/1221235628

*5:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080807/1218082121 彼はフレドリック・ジェイムソンの弟子だという。

*6:これも転載されたもの。

*7:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090514/1242326486

*8:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120125/1327463364 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120202/1328208568

*9:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090317/1237229054 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090625/1245905548 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100625/1277464104 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101206/1291601715 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110224/1298525006 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110924/1316890882 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20111106/1320550477 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20111225/1324782469 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120125/1327463364 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120613/1339603371

*10:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120302/1330711979

*11:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120309/1331322527

*12:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110228/1298867905