脱工業化社会ということ

原田朱美「選挙に期待できないって本当? 現代の賢人「あの方」のシンプルな答え」https://withnews.jp/article/f0171021003qq000000000000000W03j10101qq000016113A


ここで「現代の賢人」として紹介されているのは、「ライフネット生命」創業者の出口治明という方*1なのだが、「読んだ本は1万冊以上、旅した国は70カ国」という紹介のされ方から、それを見た瞬間に自分の眉に唾をつけてしまった。まあ或る程度以上の学歴の人で、70近くまで生きていれば、「以上」かどうかはわからないけれど、誰でも1万冊近くの本は読んでいるんじゃないの? 記事を読んでみて、眉に唾をつけるというのは無駄な所作であったことがわかった。


(前略)
 「戦後の日本って、製造業の『工場モデル』で引っ張ってきたんです。工場って、ベルトコンベヤーで部品が流れてきて、みんなで手分けして作業をするでしょう。そこにひとりスティーブ・ジョブズみたいない人がいて、『これはなんだ?』とかやり始めたら、アカンでしょう?」


――ラインが止まります(笑)

「だから、戦後の日本の社会は、『みんなが決めたことは守りましょう』とか、『協調性を大事にしましょう』とか、『空気を読みましょう』とか、そういう社会システムをつくってきた。それが一番効率が良かったからです」


――そういえば、ネットでの炎上や議論をみていると、必ず「ルールを守らなかった方が悪い」という意見が一定数います。ルール自体の妥当性は問わずに。

「でも、今は産業の4分の3がサービス業です。製造業ではない。サービス業は、アイデアで勝負する。ジョブズを生み出すしかないんです。工場モデルのような『みんなで決めたことを守りましょう』『我慢強く仕事をしましょう』ということでは、もう日本は立ちゆかないんですよ」


――若い世代には、特にそういう「工場モデル」的価値観への反発があると感じます。

「良いか悪いかはともかく、サービス業ってジョブズみたいな人じゃないとアイデアが出ないんです。社会全体を、そういう方向に変えていかなければいけない。これが、日本はなんでこんな社会になったのだろうと考えた、僕の仮説です。戦後人口が増えた中で、製造業の工場モデルで引っ張ってきた構造要因があると思っています」

そういえば、〈脱工業化社会(post-industrial society)〉*2という議論は既に1960年代から起こっていたのだが、何時の間にか目にしたり耳にしたりすることが少なくなった気がする*3。〈ポストモダン〉言説がモードから外れてしまったのと軌を一にしていたのだろうか。まあ、〈再帰的近代性(reflexive modernity)〉の議論に引き継がれたのだと言えないこともないのだが。何が言いたかったといえば、謂うところの「工場モデル」が長生きしすぎたということ。
ところで、記事のタイトルからすれば主要部分である筈の民主制についての発言も傾聴に値する;

――たとえば、自分が思う「争点」って人によって違うじゃないですか。それって、「投票用紙」だけでは伝わりませんよね。

「そんなの、職場でも学校でも、自分の意見と100%合う人なんか、いないじゃないですか。どこかでOKとするしかないでしょう。それと同じです。自分と意見が100%合う人がいたら、怖いですよ。それがファシズムにつながる。自分の意見とぴったりの人がいないというのは当たり前なんですよね」


――たしかに。

「たとえば、そういうことで悩む人がいたら、『あなたの職場で首尾一貫してる人っています? 役員に怒鳴られたらみんな意見を変えてるやないか(笑)』と言ってあげればいい。政治家だけじゃなく、人間って、そういうものですよ。完全な人間なんていません。そういう人の中から、『マシな人』を消去法で選ぶのが、民主主義なんです」

さて、この出口さん、大本教の出口家*4とは関係ないのか。

*1:http://www.lifenet-seimei.co.jp/deguchi_watch/ https://twitter.com/p_hal See eg. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%87%BA%E5%8F%A3%E6%B2%BB%E6%98%8E

*2:或いは脱産業化。

*3:この言葉の発明者はダニエル・ベル。See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110127/1296098156 因みに、1982年には篠原一『ポスト産業社会の政治』という本が出ている。See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070708/1183872737

ポスト産業社会の政治 (1982年) (UP選書〈223〉)

ポスト産業社会の政治 (1982年) (UP選書〈223〉)

*4:See eg. http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160314/1457881418