「棄権」の話から

朝日新聞』の記事;


大学スポーツと学業の両立は? 苦渋の棄権が投じた一石

編集委員

2017年10月14日09時56分

 今季の関西学生アメリカンフットボールリーグ3部で、9月9日土曜日の試合に「兵庫医大1―0大阪芸大」という記録がある。

 大阪芸大の棄権だ。

 「うちは土曜も夕方まで授業があるので」と、岡田邦彦監督は説明する。去年までは主に日曜祝日に試合があり、土曜は1、2試合で、教員も学生も「それくらいなら」と授業を欠席した。それが、今季はリーグ側が競技場確保に苦心する中、全5試合が土曜になってしまった。

 5日分の授業全部を欠席はできない。交代で試合をしようにも、部員は約20人。初心者の1年生を出すと大けがにもつながる。やむなく9月の初戦と大事な実習が重なる12月の最終戦を棄権、残り3試合に万全を期すことにした。

 50年の部の歴史で初の棄権だそうだ。「かつては運動部の学生は練習や試合優先が当然だったが、今は違う。引退後のセカンドキャリアを考えれば、本当の意味で社会に通用する人間を育てないといけない」と、岡田監督は決断の理由を話した。

 競技と学業をどう両立させるか。これは特別な大学の、小さな部に限られた問題ではない。神宮球場が空く平日の開催が伝統となっている東都大学野球をはじめ、週末は競技場の借用料が高い事情などもあり、授業がある平日に設定されるリーグ、大会は少なくない。両立させたい学生は授業を受ける権利が奪われ、スポーツだけをしていればいいという学生は学業への意識がさらに遠のくことになる。

 今、大学スポーツは変革が模索されている。スポーツ庁は、競技を横断して統率する組織である全米大学体育協会(NCAA)をモデルに、2018年度中に「日本版NCAA」の創設を予定する*1


 収益アップを含めた大学スポーツ振興を目指す制度設計だが、その役割としてまずは安全性の向上と、学生アスリートの学業充実への体制作りが先決と位置づけられている。13日には大学、競技団体関係者らが集まり、学業充実に向けた課題の洗い出しが行われ、競技連盟との連携のほか、中高の段階から指導者、保護者に共通理解を持ってもらう必要性などが挙がった。

 学生と監督が悩んだ末の大阪芸大アメフト部の決断は、大学スポーツの在り方に一石を投じている。(編集委員
http://www.asahi.com/articles/ASKBF5GQHKBFUTQP019.html

先ずこの記事の著者表示が凄い! と言っておこう。「編集委員」っていったい誰なんだよ?
ただ、記事の内容は面白かった。というか、私たちが若かった頃だと、こういうことが問題になったかどうかということを思った。私たちよりさらに上の世代だけれど、例えば駒澤大学時代の中畑清が部活のために授業に出られないことを悩んだことがあったのだろうか。ちょっと前に、大学の野球部が「東都大学」で優勝して、その祝勝会のために大学キャンパスとその周辺がカオス状態になったということを書いた*2。上の記事にもあるように、「東都大学」の場合、試合はだいたい平日にある。特にリーグの後半になると、休講への圧力が高まってきて、試合のある日に授業を断行する先生を巡っては、この非常時にのうのうと授業をやるなんて愛校心が欠如しているんじゃないかという非難の雰囲気が醸し出されていたのだった。
さて、この「 競技と学業をどう両立させるか」というのは、就職活動と学業をどう両立させるか、学生運動と学業をどう両立させるかというふうな変奏で議論することも可能だろう。
今年の夏に山口県の某高校野球部監督が「文武両道はありえない」と発言し、それに対する賛否の論争が暑い夏の日をさらに過熱させたということがあったのだが*3、賛否というよりも、より根本的なところ、或いは多くの人にとってはどうでもいいところが疑問だったのだ。すなわち、そもそも「文武両道」という表現は適切なのかどうかということ。江戸時代じゃないんだからさ。「武」の目的とは何か。究極的には相手を殺すことということなるだろう。少なくとも、江戸時代の武士ならそういう覚悟をしていた筈だ。しかし、スポーツの目的はそうではない。まあ英語のsportが元々気晴らしとか娯楽といった意味であり、スポーツは遊ぶ(play)ものだということはあるのだけれど、実際に(野球を含む)多くのスポーツにおいて行われているのは(模擬的な)戦争ではなく競争である。レスリングやボクシングのような格闘技は、まあ象徴的・儀礼的な意味で「武」ということはできるだろう。しかし、それ以外のスポーツは「武」ではないよ。ところで、日本における野球が必要以上に「武」的で殺伐としているようにみえるのは、翻訳のマジック故かもしれない。outを「死」と訳すとか。或いは併殺とか封殺とか。

*1:See eg. 「(社説)大学スポーツ 改革に求められる視点」http://www.asahi.com/articles/DA3S12906882.html

*2:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170917/1505661258

*3:See eg. 「「文武両道などあり得ない」偏差値36甲子園初出場監督の持論に武井壮が噛み付く」https://www.j-cast.com/2017/08/18306219.html?p=all キャリコネ編集部「武井壮、甲子園スパルタ監督の「文武両道はありえない」に猛反論! 「人生はスポーツ、勉強、性格などの総合点で決まる」」https://news.careerconnection.jp/?p=39522高校野球の「文武両道あり得ない」発言に賛否。“外野”に求められる正しい姿勢とは?」https://netallica.yahoo.co.jp/news/20170823-35689458-citrus林哲夫 「野球強豪校はなぜ“文武両道”を敵視するのか ― ブラック部活と高校野球を考える」https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170818-00010002-binsider-bus_all