或る批判の帰結

宇野常寛*1という人にそれほど関心があったわけではない。その宇野氏がNTVの『スッキリ!!』という番組に出ていたことも、そこで「アパ」の歴史修正主義*2を批判していたことも知らなかった。その批判の帰結を巡って;


リテラ編集部「宇野常寛が『スッキリ!!』クビ切り降板の真相を激白! 右翼の街宣抗議で日テレが「右翼批判するな」と言論封殺」http://lite-ra.com/2017/09/post-3427.html


曰く、


8月31日夜、評論家の宇野常寛氏が自身のネット番組『木曜解放区』で、2015年4月から木曜コメンテーターを務めていた『スッキリ!!』(日本テレビ)を9月いっぱいで降板することになったと報告し、話題を呼んでいる。というのも、降板の背景に、右翼からの抗議があったと明かしたからだ。

「具体的な発端は、ぼくのアパホテル批判です。アパホテル南京大虐殺否定論を歴史修正主義としてぼくが批判した1月19日の放送がきっかけです。その結果、日本テレビに2回ほど右翼団体街宣車が来て、大問題になりました。その結果、日本テレビの小林景一プロデューサーは、ぼくに対して『右翼批判はおこなわないように』という要求をおこないました」

 今年1月、ホテルチェーンのアパホテルが、元谷芙美子社長の夫・元谷外志雄氏が書いた南京事件を否定する本を客室に設置していることが中国ほか海外で批判の声があがり、国際問題に発展したことは記憶に新しい。そして、この問題を『スッキリ!!』で取り上げた際、コメントを求められた宇野氏は、「この人の歴史観ってのは、もう話になんないと思いますよ」と切り出し、こう述べた。

歴史修正主義だし、陰謀史観だし。何やってんだともう呆れるしかないと」
「たとえば中韓の、ある種の反日ナショナリズムみたいなものは現実に存在すると。ああいったものに対してどうしたもんかなと思っている日本人がとるべきは、こういった歴史修正主義で対抗するんではなくて、こういったトンデモ歴史観を、妄想を垂れ流して対抗するんではなくて。やはり地道な外交努力だったりとか文化交流だったりとか、そういったことによって信頼関係を築き上げていくことだけが唯一の解決法なんで」


「テレビ局が街宣車にビビってコメンテーターの発言を規制するなんてことは、絶対に報道機関としてあってはならない。ぼくはそう考えて拒否しました」(『木曜解放区』での宇野氏の発言)

 だが、小林プロデューサーは宇野氏の拒否に「激怒」。宇野氏によれば、なんと「最終的には本番中にぼくのことを怒鳴りつけると。カメラは回っていませんでしたけど、そういう事態にまで発展しました」という。この際、宇野氏は謝罪と発言の規制をしないという2つの要求をおこない、それが守られなければ番組を降板すると通告。当初、小林プロデューサーは「自分は悪くない、宇野が悪い」という姿勢だったというが、その後は一転して宇野氏に謝罪したらしい。


ワイドショーのコメンテーターながら、当のテレビの問題点を直截的に指摘する。──番組スタッフの意図を汲み取った当たり障りのない感想ばかり発するコメンテーター、あるいは炎上を恐れて保守的な発言を繰り返すコメンテーターが多いなか、宇野氏は空気を読むことなく持論を述べてきた。しかし、そんな宇野氏を起用した番組制作サイドが、よりによって右翼の抗議という言論弾圧に与し、自由な発言を封じようとしたのだから、呆れるほかない。宇野氏の怒りはもっともだ。

「(番組制作側である)彼らのロジックはこうです。『ぼくの主張は、宇野の言い方は、一生懸命番組をつくっているスタッフに失礼だ』。論点おかしくないですか? 一生懸命つくっていれば、歴史修正主義も許されるんでしょうか。一生懸命つくっていれば、いじめエンターテイメントが許されるんでしょうか。しかも、それを疑問視する声を封殺していいんでしょうか。ぼくは、彼らに、軽蔑しか感じません」
「別にね、彼ら個人は右翼でもなんでもないと思うんだよ。ただ面倒を起こしてほしくないからこいつを黙らせよう、なんだよ。で、その結果、俺を本番中に怒鳴ってるんだよ。怒鳴り返す相手ちょっと間違えてない? お前、街宣車に怒鳴れよ、って感じなんだよね」

所謂「大人の分別(adult sensibility)」という奴;

さらに、宇野氏は『スッキリ!!』MCの加藤浩次氏について言及するなかで、こんなことも語った。

「加藤さんってやっぱテレビ信じてるんだよね。テレビが積み上げてきたものをバカにしちゃいけないとかね。なんか芸能人のゴシップとかさ、市議に対するいじめ的な報道をね、それを望む人たちがいるんだから仕方ないじゃないかって彼は言うんだけど、ぼくはその『仕方ないんじゃないか』と、『鈍感なフリをすることが大人になることだ』っていうそのテレビ的な価値観、イデオロギー自体が、いまの世の中をつまらなくしていると思うわけね」
「これをやってね、みんなぬるくなっていっちゃったんだよ。わかる? そこで鈍感なフリをすること、清濁併せ呑むことが大人になることだと思った瞬間に『いやー大変ですねー、由々しき問題ですねー』『ちょっとあらためてほしいですねー』以上のこと言えなくなるの。まじで。みんなそう。中身のあること一個も言えなくなるの」