Caffe americano, or an arrogant fool

横山信弘「なぜスタバの「アメリカン」はお湯で薄めただけなのに20円高いのか?」http://bylines.news.yahoo.co.jp/yokoyamanobuhiro/20161206-00065178/


横山信弘の文章というのは実は初めて読んだのだが、思いっきり蹴り飛ばしてやりたいという怒りが湧いてくると同時に、馬鹿を嘲笑う快楽に酔っ払ってしまうという変な気分を味わっている。馬鹿は馬鹿でも質の悪い馬鹿というか、自分の馬鹿さ加減に気付いていないわけではないのだろうけど、それによって謙虚にはならず、逆に自らの馬鹿さ加減を燃料にして傲慢な説教を始めてしまうという、そんな馬鹿。
長いけれど、引用してみる;


一般的に「アメリカン・コーヒー」とは、普通のドリップコーヒーよりも薄味のコーヒーを指します。浅く焙煎したコーヒー豆で入れたコーヒーのことですが、ドリップコーヒーにお湯を入れて薄めたものも「アメリカン・コーヒー」と呼ばれています。

したがって、このような知識だけでスターバックスの「アメリカン」を考えると、ドリップコーヒーよりも20円高くなるのはどうしてなのか? と思うのが普通でしょう。「取引コスト」はつまり【お湯を入れる手間】か? となるからです。

しかし調べてみると、意外とややこしい事実が判明します。スタバの「アメリカン」は一般的な「アメリカン・コーヒー」ではなく「カフェ・アメリカーノ」であり、「カフェ・アメリカーノ」は「アメリカン・コーヒー」とは別の飲み物であるという、少しばかり複雑な前提条件を知る必要があるからです。

アメリカン・コーヒー」は普通のドリップコーヒーにお湯を入れて薄めたもので、「カフェ・アメリカーノ」はエスプレッソコーヒーをお湯で薄めたものだそうです。スタバで出している「アメリカン」は「アメリカーノ」であるため、ドリップコーヒーではなく、エスプレッソにお湯を入れています。

ドリップコーヒーの場合、一度に何杯分もの量を作って置いておきます。しかしエスプレッソの場合は、注文のたびに一杯ずつ作らなければなりません。この手間が「取引コスト」として発生し、すべてのサイズで「20円」ずつ高くなる、という原理なのでしょう。

私のように「アメリカン」と「アメリカーノ」は同じである、という認識があると、なぜ20円高いのか? ひょっとして、お湯が20円するのか? 自宅からお湯を持参して足したほうが安くて量の多い「アメリカン・コーヒー」を楽しめるじゃないか? などと勘違いします。しかし実際はそうではないのですね。

ただ、ここで疑問を抱くのが、スタバの「カフェ・アメリカーノ」の味に関してです。普通なら、苦みの薄いコーヒーを欲する人が「アメリカン」を頼むのでしょうが、この「カフェ・アメリカーノ」は、普通のドリップコーヒーよりも味が薄いのだろうか? ということ。ドリップコーヒーよりも苦いエスプレッソを薄めているわけですから、プラスマイナスゼロではないか、とコーヒーに関して素人である私は感じてしまうのです。スタバの公式サイトには「すっきりとしたのどごし」と書かれているので、もちろんドリップコーヒーとは違うテイストになっているのでしょうが、少なからず、スタバの「カフェ・アメリカーノ」は、ドリップコーヒーを単に薄味にした飲み物ではない、と認識する必要がありますね。

また、このことを考えていて、個人的に強く気になったのが飲み物の名称です。お客様を困惑させる名称になっていないか、気になるところ。「コーヒー」という名詞を前から修飾する形容詞「アメリカン」を、「カフェ」という名詞を後ろから修飾する「アメリカ―ノ」に変えたからといって、別の飲み物だと認識するのは、けっこう難しい。特に素人には、その違いはわからないだろうと思うのです。

アメリカンフットボール」とは別のスポーツに「フットボールアメリカーノ」と名付けたら、アメフトの選手は抗議しないだろうか? 「アメリカザリガニ」とは別の生き物に「ザリガニアメリカーノ」と名付けたら、アメリカザリガニもしっくりこないではないだろうか? いろいろ考えたりしました。

スタバの「アメリカン」、いや「カフェ・アメリカ―ノ」が、普通のドリップコーヒーよりも高くなる「取引コスト」に関しては納得できます。しかし、商品は誤解されないネーミングをつけることが大切だと改めて思いました。今では日本人の多くがシアトル系コーヒーに接しており、私のように商品知識の乏しい人もスタバを利用するだろうからです。

致命的に馬鹿だと思ったのは、スターバックスが所謂「アメリカン・コーヒー」から自らを差別化するために「カフェ・アメリカ―ノ」という言葉を作ったと思い込んでいるらしいことだ。Caffe Americanoというのはスターバックスの商品名でも何でもない。英語(米語)話者に共有されている一般的な語彙である。日本的な喩えをすれば、きつねうどんとかたぬきそばというのが特定の店の商品名などではなく、日本語話者に共有されている一般的な語彙であるようなものだ。また、Caffe Americanoはそもそも英語ではなく伊太利語。つまり外来語である。まあ米国では(日本と同様に)伊太利はグッチとかアルマーニといった高級ブランドの国というイメージがあるので、米国で伊太利っぽい商品名をつければ、何となくの高級感を醸し出すことができるということはあるんじゃないだろうか。ただ、Caffe Americanoはそれとは関係ない。元々は伊太利人がエスプレッソをお湯で割る米国人のやり方を揶揄した表現だったいう説もある。米国人の方がそれを謙虚に、半分は開き直って受け入れ、英語(米語)の中に定着した。だから、「カフェ・アメリカ―ノ」にいちゃもんをつけるというのは、伊太利の珈琲文化、さらにはそれを受け入れた米国の珈琲文化に喧嘩を売っているのと同じなんだよ。
Caffe Americanoの意味なんていうのはWikipediaを読めば直ぐにわかる*1。手許にある英和辞典には載っていなかったけれど、記載している辞書も少なくない筈。Caffe Americanoを英語に直訳すると、American Coffeeになる。しかし、American Coffeeという英語表現は存在しない。「アメリカン・コーヒー」というのはあくまでも日本語。それこそ、Caffe Americanoに馴染んだ米国人が「アメリカン・コーヒー」を飲んだら吃驚するだろう。吃驚したのは、日本語の意味としても、浅く焙煎した所謂American roast*2のことであって、珈琲をお湯で割ったらアメリカンというのは間違いなのに、21世紀にもなって、それが堂々と通用しているということ。また、そういうお湯割りアメリカンを商品として提供している喫茶店(カフェ)もあるの? 信じられない!