『グラン・トリノ』から朝鮮戦争へ(メモ)

グラン・トリノ [DVD]

グラン・トリノ [DVD]

http://blog.livedoor.jp/skeltia_vergber/archives/51156700.html


クリント・イーストウッドの『グラン・トリノ*1について。この映画については幾つかメモ書きをしようと思っていたのだが、なかなか余裕がなく、いわばSkeltia_vergberさんに先を越されてしまったわけ。
幾つかコメント。先ずウォルトの交流範囲について。彼の友人として登場するのは伊太利系とアイルランド系で、どちらもカトリック教徒であり、教会つながりの付き合いであると考えられる。
「高級住宅地」か。ウォルトが住んでいるのは「かつての高級住宅地」というよりは普通の郊外住宅地ということだろう。これは〈アメリカン・ドリーム〉の一側面とその終焉ということに関係がある。戦後の日本でもそうなのだが、〈アメリカン・ドリーム〉の重要な一側面として、労働者階級でも地道に働いていれば郊外に庭付き一戸建ての家を買えるということがあった。ウォルトの家は〈アメリカン・ドリーム〉であり、住宅地の荒廃は産業空洞化による〈アメリカン・ドリーム〉の終焉を意味するのでは?
それから、『グラン・トリノ』の〈如何にして暴力を打ち止めにするのか〉という主題は南アフリカにおける差別した側の白人と差別された側の黒人との和解を描く『インヴィクタス』にも受け継がれていると言える。http://d.hatena.ne.jp/TRiCKFiSH/20100213/p1によると、この2作から見えてくるのは「多民族国家愛国主義者」としてのクリント・イーストウッドであるという。

インビクタス / 負けざる者たち Blu-ray&DVDセット(初回限定生産)

インビクタス / 負けざる者たち Blu-ray&DVDセット(初回限定生産)

さて、『グラン・トリノ』のウォルトは朝鮮戦争に従軍したトラウマを抱えているのだが、それとは関係なく中国の話。陳真「可以接摸的戦争記憶――記一部発現的志願軍戦地日記」(『書城』2010年11月号、pp.5-18)によると、10年くらい前から朝鮮戦争に従軍した中国人の当時の日記の公刊が始まっている。例えば、


謝愛康『和平之神――一個志願軍的戦地日記』上海文藝出版社、1998
張恩儒『昨日硝煙――一個志願軍報務員在朝鮮的日記』華齢出版社、2001
陸興久『朝鮮戦場一千天――一個志願軍戦士的日記』軍事科学出版社、2003
徐光耀『陽光炮弾未婚妻――徐光耀抗美援朝日記』中国文聯出版社、2008


上のテクストは、著者が2010年8月に北京潘家園の古本屋で偶然入手した朱玉麟という人の従軍日記(全3冊)を紹介したもの。1950年11月8日から1953年10月8日まで。朱玉麟は蘇州人で、東呉大学(現在の蘇州大学)を卒業後(今は黒龍江省に属する)「松江省」で中学教師をしていた。1950年当時26歳。1950年10月末に「中国人民志願軍」に加入し、「第九兵団第二十七軍」に編入され、英語通訳として捕虜の尋問などに従事していた。「第二十七軍」は1952年に撤退するが、彼はその後も1953年の停戦まで朝鮮に留まっていた。この日記の特殊性は、一般兵士と違って、彼が軍の上層部と接触し戦局を見渡せる立場にいたこと、捕虜の尋問や米軍側資料の翻訳を通じて米軍側の事情を直接知る立場にいたことによるという。朱玉麟が1953年に復員してからどのような人生を送ったのかは全く明らかではない。今生きているとすれば、86歳。