近代日本史的問題

北海道の鉄道網(JR北海道)が大変なことになっているということは、以前から議論されていたようなのだ。例えば、


isaacc*1「札幌圏を含めて全区間が赤字…JR北海道大変なことになってる」https://matome.naver.jp/odai/2145412762404468801


そして、11月18日のJR北海道による発表;


北海道旅客鉄道株式会社「当社単独では維持することが困難な線区について」http://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/161118-3.pdf


これについて、時事通信は以下のように報じている;


全路線の半分、維持困難=3区間は廃止、地元と協議へ―JR北海道

時事通信 11/18(金) 19:36配信


 JR北海道の島田修社長は18日の記者会見で、単独での路線維持が困難な赤字の10路線13区間を公表した。対象は、全路線の約半分に相当する約1237キロに上り、うち3区間は廃止を前提とする。8区間は路線維持の費用について、沿線の自治体と協議するが、地元の反発は必至だ。

 廃止を前提とするのは、札沼線北海道医療大学新十津川間(47.6キロ)、根室線富良野新得間(81.7キロ)、留萌線の深川―留萌間(50.1キロ)の3区間。いずれも1日1キロ当たりの利用者数を示す輸送密度が200人を割り込んでおり、バスへの転換を図る方向で検討する。

 輸送密度が200人以上2000人未満の宗谷線の名寄―稚内間など8区間については、自治体が線路などの施設を一部保有し維持管理を担う「上下分離方式」の導入も含め、自治体の協力を求める考えだ。

 残る石勝線の新夕張―夕張間(16.1キロ)は夕張市が廃止を容認済みで、運休中の日高線鵡川―様似間(116キロ)は自治体と設けた協議会で今後の在り方を検討する。

 JR北海道は2011年の石勝線トンネル内での脱線炎上事故を機に、運行トラブルが相次いだ。安全投資や修繕費が膨らんだ上、赤字を穴埋めする(国からの)経営安定基金の運用益も減少し、経営状態が悪化している。

 島田社長は「何もしなければ19年度末に必要な安全資金が確保できなくなる」と説明。その上で「そのころまでに地元自治体と一定の合意形成ができるよう努力していきたい」と語った。 
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161118-00000171-jij-bus_all

また、沿線住民の声を伝える『毎日新聞』の記事;

<JR北事業見直し>「大切な足奪わないで」路線維持願う声

毎日新聞 11/18(金) 22:57配信



 「年金生活者には大切な足なのに……」。JR北海道は18日、在来線の総延長約2420キロのうち、約5割に当たる約1237キロ(10路線13線区)を「維持困難な路線」として公表した。路線廃止や減便、バス転換など鉄路の大幅縮小の可能性が高くなり、対象線区の住民からは不安や不満の声が漏れ、路線維持を求める声が相次いだ。【横田信行、千々部一好、平山公崇】

 廃止・バス転換の検討線区となった根室線富良野新得間の幾寅駅(南富良野町)。故高倉健さん主演の映画「鉄道員(ぽっぽや)」の舞台となり、今も年間約2万5000人が訪れる。真冬のロケを炊き出しなどで支えた幾寅婦人会の元会長、佐藤圭子さん(77)は「健さんは撮影後も、地元と交流してくれた。列車が通らない『鉄道員』のロケ地なんて、健さんもファンもさみしがる」とした上で、「通学や通院に利用する人もいる。このままなくなったら困る」と路線維持を求める。

 北海道のほぼ中央に位置する富良野市は、同市に乗り入れる全2路線3線区が対象となり、南富良野町の観光関係者は美瑛・富良野地域の孤立を懸念。「観光面から見た交通網の再編も考えなければならない。8月の台風被害にも遭い、泣きっ面に蜂だ」と眉をひそめた。

 また、協議対象になった室蘭線岩見沢−沼ノ端間の栗山駅で、列車を待っていた由仁町の岩元好美さん(75)は「1人暮らしの年金生活者にとって、列車は大切な生活の足。今春のダイヤ改正で便利な昼前の列車がなくなった」と不安を吐露。通学に利用している岩見沢緑陵高2年の高橋茉那さん(17)は「運賃は片道360円。バスなら600円かかる。列車は冬も事故がなく、定時運行なので安心なのに……」と話した。

 根室線釧路−根室間の厚岸駅から通う釧路工高2年の斉藤稜平さん(17)は「バスは料金がかさむから、親の負担が増えてしまう」、入院中の夫の見舞いに週3回ほど利用しているという浜中町の坂下光子さん(66)は「私は車の運転免許がなく、息子も仕事で忙しい。JR以外の移動手段を考えたことがない」と不安な様子だった。

 ◇方向性の提示必要

 JR北海道の企業体質に詳しい加藤敬太・小樽商科大准教授(経営組織論)の話 JR北は脱線事故やレール検査改ざんなど一連の問題を起こした。その会社がこれからどう変わっていくか方向性も提示する必要がある。ビジョンを示さず、廃止対象の路線を公表したことに違和感を拭えない。台風で被災した根室線富良野新得間を復旧させず、そのまま廃止方針を示したことも「被災したから廃止するのではないか」と思わせる。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161118-00000138-mai-soci

See also


JR北海道、維持困難路線「13区間」 18日にも正式発表」http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161115-00010001-doshin-hok
野原寛史、藤渕志保「<JR北海道>資金不足限界に 維持困難路線5割公表」http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161118-00000122-mai-soci
北海道新聞(社説)「北海道の鉄道網 もはやJRに任せられぬ」http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/opinion/editorial/2-0093027.html


そもそも北海道における鉄道の経営基盤は旧国鉄時代から脆く、だからこそ分割民営化に際して、巨額な「経営安定基金」が積まれたわけだ。国鉄分割民営化というのは「北海道」というお荷物を旧国鉄から切り離すための陰謀という側面があったと思っている人は少なくないのでは? 北海道の過疎の問題にしても高齢化の問題にしても、分割民営化の時には既に存在していた。また、「経営安定基金の運用益が減少し」たのはバブル経済の崩壊が関係していると言われているけれど、バブルが崩壊してから既に20年以上経っている。北海道庁中央政府が積極的な役割を果たせという意見は強い。それはもっともなのだが、JR東日本とかJR東海とかも同じJRグループとして何とかすべきだろう。
さて、JR北海道の危機、またそれと密接な関係を持つ北海道における地域社会の危機というのは、近代日本史的な意味を持つ事件といえるのか知れない。それまでは蝦夷地と呼ばれ、先住民のアイヌが散在していたにすぎなかった北海道が日本社会に本格的に組み込まれるのは、近代の北海道開拓によってであろう。そうして出来上がった北海道の地域社会*2や鉄道網の危機というのは、近代日本史にとっては或る時代の終わりを象徴しているのかも知れない。
北海道新聞』の記事;

■道北への整備 開拓とともに 過疎化や民営化で相次ぎ廃止

 道北の鉄路は開拓の歴史とともに始まった。名寄市加藤剛士市長は「この地域は鉄道とともに歩んできた」と強調する。

 少数のアイヌ民族が暮らしていた天塩川流域に1903年(明治36年)の天塩線(当時、旭川―名寄間76キロ)が開通すると、入植者が入った。

 旭川―名寄間に続き、21年(大正10年)にオホーツクと結ぶ名寄本線(名寄―興部間54キロ)、翌22年に音威子府から中頓別経由で稚内に達する天北線音威子府南稚内間183キロ)、26年には幌延経由で稚内に至る宗谷線旭川稚内間259キロ)が開通。さらに、41年に深名線(名寄―深川間121キロ)が全線開通した。

 人と物を運ぶ鉄道網の整備で、道北の中でも、上川北部地域(現在9市町村、幌加内町が2010年度に空知管内から編入)の人口は急増。20年の第1回国勢調査の9万人から、55年には15万人を超えた。

 しかし、高度成長期を経た過疎化と、旧国鉄の分割民営化の動きの中、上川北部では85年の美幸線の廃止を皮切りに、名寄本線天北線深名線と相次いで廃止、バス転換された=地図参照=。歩調を合わせるように、上川北部の人口も95年の国勢調査で9万人を割り、昨年は6万8148人に落ち込んでいる。

 今後も留萌線の留萌―増毛間が12月4日限りで廃止されるほか、同線の深川―留萌間と、根室線富良野新得間も廃止が検討されている。(西野一弥)
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/area/dohoku/1-0339717.html

勿論、過疎やローカル線の危機というのは北海道だけの問題ではない。新幹線のネットワークが張り巡らされ、各地の大都市が「東京の郊外」と化す可能性が言われる一方で*3、日本全体として、鉄道ネットワークはすかすかになっている。ここで詳しく論じることはできないけれど、すかすかになった線路は日本というネーションの想像をさらに難しくするということは言っておきたい。