「もろもろの液体」

オラクル・ナイト (新潮文庫)

オラクル・ナイト (新潮文庫)

ポール・オースター*1の『オラクル・ナイト』からの抜き書き。
「私」(「シドニー」)は年上の友人である「ジョン・トラウズ」のアパートで突然「鼻血」に見舞われて、「バスルーム」に駆け込む。


(前略)磁器の洗面台の白さを背景にすると、血は何と赤く見えることか、そんなことも考えた。この色は何と生々しく構想され、衝撃的な美しさを有していることか。人間の体から出るほかのもろもろの液体は、これに較べればいかにもパッとしない。何とも生気のないほとばしりでしかない。白っぽい唾、乳色の精液、黄色い小便、緑がかった茶色の粘液。我々は秋の色、冬の色を分泌する。だが、血管のなかを人知れず巡っている、まさに我々を生かしつづけている源は、狂える芸術家が生みだした真紅、塗り立てのペンキのような鮮やかな赤色なのだ。(p.59)
ところで、「ジョン・トラウズ」は鼻血に見舞われた「「私」(「シドニー」)に対して、「少なくとも妊娠してないことはわかったじゃないか」という(p.58)*2。これは後の方で、「私」の妻の「グレース」が妊娠するという展開の伏線になっているのだと、今気づいた。