バフチン/アレント(メモ)

バフチン (平凡社新書)

バフチン (平凡社新書)

桑野隆『バフチン』から抜書き。


(前略)一九二〇年代前半のバフチンの見解でもっとも興味深いのは、「他者」のみがもたらしうる意味生成とそれにともなう責任の強調である。
たとえば「感情移入」なるものに、バフチンはきわめて否定的であった。「貧窮化」とすら呼んでいる。ただ感情移入するだけでは、二人(以上)が出会った意味がない。「他者」として出会うのでなければ、両者のあいだに新たな意味が生まれうる貴重な機会がみすみす失われるばかりか、当人の自己喪失にもつながりかねない、という。感情移入する者は自分の責任を持っていないというわけだ。
バフチンのこうした姿勢からは、ハンナ・アーレント(一九〇六‐七五)の『暗い時代の人間性について』(一九五八)が思い起こされる。アーレントは、政治空間においては〈同情〉は〈距離〉を廃棄し、その結果〈多元性〉をも破壊するため、他者にたいする相互承認の基礎たりえないと述べていた。〈同情〉は〈連帯〉とはちがうというのである。バフチンもまた〈同情〉ではなく〈友情〉を、〈統一〉ではなく〈連帯〉を志向していたといえよう。(p.43)
Men in Dark Times

Men in Dark Times

暗い時代の人々 (ちくま学芸文庫)

暗い時代の人々 (ちくま学芸文庫)

アレントが特に問題視している感情はたんなる「同情」というよりは、『革命について』で詳論される「憐憫(pity)」であろう。compassionとしての「同情」は言葉を失って沈黙に陥ってしまう。それに対して、「憐憫」は妙に雄弁であり、行為の基盤たる相互の対等性を徹底的に破壊してしまう*1
On Revolution (Classic, 20th-Century, Penguin)

On Revolution (Classic, 20th-Century, Penguin)