ハンナ・アーレント - 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者 (中公新書)
- 作者: 矢野久美子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2014/03/24
- メディア: 新書
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最近矢野久美子『ハンナ・アーレント』を読了したばかりなのだが。
さて、2週間くらい前から気になっている、昨年12月に投稿されたエントリーがある;
plagmaticjam「はあちゅうとヨッピーとナチスドイツと経験主義〜ハンナ・アーレントは何を語ったのか〜」http://plagmaticjam.hatenablog.com/entry/2017/12/20/010506
これは凄いエントリーで、これに半年以上も気付かなかったのは、偏に私が極度の情弱であるから以外には考えられないだろう。
ここに繰り広げられているのは、思想史の偽造だよ。これを鵜呑みにして大学のレポートとかを書いた人は単位を落とします。
大量虐殺を繰り返したアイヒマンという人物がいた。ナチスドイツに仕えていたアイヒマンは大量虐殺を繰り返した後、処刑された。アイヒマンは処刑が決まった裁判で「自分は上の命令を実行しただけだ」と釈明した。そのアイヒマンの裁判を聞いたアーレントはアイヒマンは悪人ではなく凡人だと考えた。思考と行為を切り離せば人間はどれだけ残虐なこともできる。アイヒマンだけがそうなのではない。後にミルグラム実験で普遍的な心理であると判明した。
アイヒマン裁判とミルグラム実験を見たアーレントは凡人は容易に悪人になると考えた。ゆえに人間は考えなければいけない、という内容を書いた「人間の条件」を出版した。
アレントが「アイヒマン裁判」について書いた本は『イェルサレムのアイヒマン』*1。『人間の条件』*2 は「凡人は容易に悪人になる」から「人間は考えなければいけない」という内容の本ではなく、そもそも書かれたのはアイヒマンがまだアルヘンティナに潜伏していた1950年代。アレントがアイヒマンに注目したのは『人間の条件』の独逸語版が仕上がった直後だった(矢野『ハンナ・アーレント』、p.180)。 また、「考えること(thinking)」を主題とした本として、『精神の生活(The LIfe of the Mind)』があるけれど、実際のところ、ハンナ・アレントはこの本の上梓に生きて立ち会うことはできなかった。また、スタンリー・ミルグラムの研究をアレントが参照したことはないだろう。ミルグラムは実験を1961年に開始していたが、実験に基づく論文が公刊されるのは1963年*3。『イェルサレムのアイヒマン』が『ニューヨーカー』に連載され、単行本として上梓された後。また、この研究が『権威への服従(服従の心理)』*4として単行本化されるのは、さらに10年以上経った1974年。それまでは社会心理学者の間で議論されていたミルグラムの実験が広く一般の知識人(読書人)に共有されるようになるのはこれ以降。
Eichmann in Jerusalem (Penguin Classics)
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- 発売日: 1995/10
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はあちゅうを批判するのは勝手だけれど、アレントを動員するなよということはいえる。また、これは単なる感想だけど、「童貞いじり」だのを持ち出してはあちゅうをバッシングするネット民には、かつてのイスラエル政府に煽られてアレントをバッシングするユダヤ大衆の姿が重なるけど、どうだろうか。
*1:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090625/1245905548 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110801/1312219747 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110919/1316402409 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120623/1340377615 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130502/1367461468 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131016/1381939650 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160108/1452219494 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160201/1454311360 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180127/1517069996 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180214/1518610134 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180217/1518876627
*2:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050522 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050617 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060101/1136120057 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061206/1165380166 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070321/1174455126 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070502/1178032169 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070509/1178689545 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070603/1180896995 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080131/1201796826 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080407/1207591421 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080605/1212640212 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080808/1218179991 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080902/1220373887 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090202/1233596155 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090608/1244436355 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090928/1254161228 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091026/1256574276 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091201/1259695353 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100416/1271390292 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101120/1290272803 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101123/1290447049 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110508/1304878987 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110617/1308331828 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20111002/1317520950 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120430/1335760808 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120529/1338307685 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130404/1365053217 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130528/1369714773 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140102/1388631882 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140901/1409543010 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170419/1492571662
*3:See eg. Saul McLeod “Milgram Experiment” https://simplypsychology.org/milgram.html https://en.wikipedia.org/wiki/Milgram_experiment
*4:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070320/1174400423 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20111106/1320550477 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130425/1366864634