
- 作者: 須賀敦子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2014/10/07
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (18件) を見る
曰く、
ここで採り上げられるのは、ターハル・ベン・ジェルーンの『砂の子ども』*2とマイケル・オンダーチェの『イギリス人の患者』*3。須賀さんの評は本文を看ていただくとして、最後のパラグラフを切り取っておく;
作家がいろいろな事情で、彼の母語であるはずのことばではなく、本来なら彼にとって「外国語」であったはずの言語で書いたすぐれた作品は、これまでにもあった。しかし、民族の移動が(しばしば不幸な状況のもとに)ほとんど日常化した現代では、そういった作品の層は、以前とは比べものにならないほど厚くなっている。(p.49)
宗主国といわれた国々が物語を失ったかにみえるいま、これらの作家たちが、古い言語の物語を新しい手法で語りつづけるこの現象は、すこし事情はちがうが、紀元前一世紀にまだ新しいラテン語を、古いギリシャ語の韻律に組みこんだ、『アエネーイス』(泉井久之訳、岩波文庫)でラテン詩形を完成させたウェルギリウスを想起させる。あたらしい世界都市の建設をめざして、燃えさかるトロイを苦難のうちに脱出したアエネアスを主人公に据えたこの古典作品を、難民、弱者の文学だと評したのは、ユダヤ系の評論家ジョージ・スタイナーだったが、これもまた、ひとつの偉大な文化がつぎの文化に場をゆずった時期の象徴的な文学として読むことができる。(pp.50-51)

- 作者: ターハルベン=ジェルーン,Tarhar Ben Jelloun,菊地有子
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 1996/06/01
- メディア: 単行本
- クリック: 15回
- この商品を含むブログ (14件) を見る

- 作者: 須賀敦子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2014/09/08
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (11件) を見る
*1:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20151228/1451281770
*2:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110210/1297306202 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110709/1310238338
*3:小説は読んでいないが、映画『イングリッシュ・ペイシェント』は観ている。See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061227/1167232194 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091101/1257084108
*4: 『霧のむこうに住みたい』、pp.87-99 Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150630/1435639382