一葉/須賀(メモ)

須賀敦子「一葉の辛抱」(in 『塩一トンの読書』*1、pp.35-37)


須賀敦子さんは、敗戦直後の大学時代、樋口一葉の『十三夜』の文体に衝撃を受けたという。曰く、


(前略)実家より格式の高い家に嫁いだ娘、お関が、もう辛抱できないと両親のもとに帰ってくるが、結局はなだめられ、夫のところに戻る、その道でひろった人力車をひいていたのが、いまはうらぶれた幼なともだちの録だったという、暗い、さびしい話だったが、私がなにより衝撃をうけたのは、あのたたみかけるみたいな、主人公のお関に似てどこか歯をくいしばったような文章のリズムだった。そして、日本語の文章が、こんな息もちがせない長さで、しかも論理を踏みはずすことなく続けられているのにも、目をみはった。ある期間、わたしは一葉をまねて、しまいには文語調で文章をつづる練習をひとり重ねてみたりした。つぎつぎと作品を読んで、作者が女であることにも、わたしはしんみりさせられた。名ばかりの女性解放は叫ばれても、社会的にも、わたし個人のまえにも、女が歩く道はとざされていた。(pp.35-36)
『十三夜』は読んだことがない。