「死に神」に「ハンバーガー」?

朝日新聞』の記事;


糖尿病7歳児に治療受けさせず死なす 殺人容疑で男逮捕

2015年11月26日11時05分


 糖尿病を患っていた宇都宮市男児(当時7)に適切な治療を受けさせずに死亡させたとして、栃木県警捜査1課と鹿沼署は26日、同県下野市小金井1丁目の会社役員近藤弘治容疑者(60)を殺人容疑で逮捕し、発表した。

 捜査1課によると、亡くなったのは宇都宮市東原町の小学2年生今井駿君。近藤容疑者は、今井君の両親から1型糖尿病でインスリンの投薬治療が必要だと聞いていたが、4月上旬ごろから投薬治療を中断させ、医師による適切な治療を受けさせないまま放置して死亡させた疑いがある。

 今井君は4月27日、搬送先の病院で死亡した。司法解剖の結果、死因はインスリンの欠乏で起きる「糖尿病性ケトアシドーシス」を併発した1型糖尿病に基づく衰弱死だった。

 捜査関係者によると、今井君の母親が以前からの知り合いだった近藤容疑者に相談。近藤容疑者は自身に特別な力があると今井君の両親に信じ込ませ、「私の言うことを聞けば大丈夫。他の人にはない力を持っている」などと話し、今井君に足や腹を触るなどの行為を繰り返した。報酬として両親から200万円以上を受け取っていたという。

 今井君が搬送された病院から通報を受けた県警が捜査を始めていた。
http://www.asahi.com/articles/ASHCV3CJDHCVUUHB002.html


容疑者「男児の腹の中に死に神が」 糖尿病7歳殺害事件

2015年11月27日05時04分

 糖尿病を患っていた宇都宮市男児(当時7)に適切な治療を受けさせずに死亡させたとして、栃木県下野市小金井1丁目の会社役員近藤弘治容疑者(60)が殺人容疑で逮捕された事件で、近藤容疑者が自ら祈禱(きとう)師の「龍神(りゅうじん)」と名乗り、治療と称して呪文を唱えたり体を触ったりしていたことが捜査関係者への取材でわかった。近藤容疑者は容疑を否認しているという。


 捜査1課によると、亡くなったのは宇都宮市東原町の小学2年生今井駿君。近藤容疑者は、今井君の両親から1型糖尿病でインスリンの投薬治療が必要だと聞いていたが、両親と共謀して4月上旬ごろから投薬治療を中断させ、医師による適切な治療を受けさせないまま放置し、4月27日に死亡させた疑いがある。

 捜査関係者によると、今井君は昨年11月に重度の1型糖尿病と判明した。母親が「ずっとインスリン投与を続けるよりも完治してほしい」と、知人の近藤容疑者に相談。近藤容疑者は「腹の中に死に神がいるからインスリンでは治らない」などと、ろうそくを立てて呪文を唱えたり、今井君の体を触ったり、ハンバーガーや栄養ドリンクを摂取させたりした。治療費として両親から200万円以上を受け取っていたという。県警は今後、両親を保護責任者遺棄致死容疑で調べる。
http://www.asahi.com/articles/ASHCV61ZHHCVUTIL04N.html

東京新聞』の記事;

糖尿病治療中断 7歳男児死なす 殺人容疑「祈祷師」逮捕

2015年11月26日 夕刊

 1型糖尿病を患う宇都宮市の小学二年男児(7つ)へのインスリン投与を中断し、死亡させたとして、栃木県警は二十六日、殺人の疑いで、同県下野市小金井一、自称祈祷(きとう)師の会社役員近藤弘治容疑者(60)を逮捕した。

 県警によると、死亡したのは宇都宮市東原町五、今井駿君。近藤容疑者が「腹の中に死に神がいるからインスリンでは治らない」と両親に告げ、治療と称し今年二月にインスリン投与を一時中止させた。治療費として計数百万円を両親から受け取っていたという。両親は昨年十二月ごろ、近藤容疑者に「治療」を依頼。同容疑者は駿君の体をさすったり、呪文を唱えたりする行為を繰り返していた。県警は保護責任者遺棄致死容疑の可能性があるとみて、両親からも事情を聴いており、書類送検する方針。

 逮捕容疑は、インスリン投与をしなければ死亡する恐れが大きいことを知りながら今年四月上旬ごろ、両親に駿君へのインスリン投与を止めさせて、医師による治療などを取らずに放置。同二十七日に県内の病院で衰弱死させたとされる。容疑を否認しているという。

<1型糖尿病> 膵臓(すいぞう)のβ細胞が自己免疫などによって壊れ、血糖値を下げるインスリンが分泌されなくなる病気。国内の年間発症率は10万人当たり1〜2人で、小児期に起こることが多いとされる。根治のための効果的な治療法がなく、膵臓移植を受けるか、生涯にわたって毎日注射などでインスリンを補う必要がある。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201511/CK2015112602000259.html

インスリン投与をしなければ死亡する恐れが大きい」。逆に言えば、面倒くさいかも知れないが、「インスリン投与」によって血糖値をコントロールさえすれば、これからもずっと生き延びられた筈なのだ*1。また、将来「膵臓移植」のチャンスがあるかも知れない。だから、「根治」は不可能だとしても、不治の病で医者にも見放されて、だめ元で怪しげな民間療法やら祈祷師やらに頼るということでもなさそうだ。
「両親」はこの近藤というオヤジに息子の生命を預け、200万以上の「治療費」を渡していたわけだ。朝日の記事では、近藤は「自身に特別な力があると今井君の両親に信じ込ませ」たとあっさり書かれているけど、「信じ込ませ」るのは容易くはない。「特別な力」をどのように納得させたのだろうか。(真偽はともかくとして)難病奇病を治しているという評判があったのだろうか。制度的な医療でも、名医なのか藪なのかという評判は重要である。制度的な保証のない呪術の場合は、評判こそ全てだと言っていいかも知れない。或いは、近藤の容貌や語り口の迫力に圧倒されたのか。 
近藤はこの子の「糖尿病」の原因を「死に神」であると断定した。どんな医療でも病因を殺したり、患者の身体から追い出したりする。細菌が原因だとしたら、抗生物質を投与するとか。或いは、悪霊を燻り出すとか。でも、記事を読む限りでは、近藤は病因たる「死に神」に何らかの働きかけを行っているようには見えないのだ。「ハンバーガーや栄養ドリンクを摂取させ」たというけれど、その呪術的な意味がわからないのだ。呪術では言語の修辞学的操作によって対象に対する働きかけが行われることが多々ある。例えば(濡れ場のある)春画を火事除けのお守りとして使うとか*2。「ハンバーガー」や「栄養ドリンク」と「糖尿病」の(意味的)関係や如何に?