リフレクシヴな人

「ギャルから慶応合格、AV女優から日経記者 鈴木涼美の「夜と昼」」http://withnews.jp/article/f0150119000qq000000000000000W00h0701qq000011406A


鈴木涼美さん*1の自伝的語り。20世紀の終わりから21世紀の初頭にかけて「ルーズソックス」を穿いた「ギャル」だった人のライフ・ヒストリー。読んでいて思ったのは、この人はリフレクシヴな人だ! ということ。曰く、

 
高校時代は渋谷に所属するギャルでした。放課後はギャル仲間とクラブやカラオケ店に入り浸り、ハンバーガー店やギャル専門のショッピングビル「109」にたむろす。茶髪に白メッシュ、制服はミニスカート、胸のボタンをひとつ多めに開けたワイシャツ、スーパールーズソックスが基本形。今の「JKビジネス」に象徴されるように、当時も女子高校生というだけで価値があった時代でした。マスコミにもよく取り上げられて、女子高生すなわち「世相の発信者」という万能感に包まれていました。

 高3になって卒業後を考えました。もうすぐこの日常は終わってしまう。女子高校生という価値が失われた自分に何が残るのか。

 女はしたたかです。刹那(せつな)的な楽しみを重視するギャルであっても、卒業後は勝っていたい。109のショップ店員になりたいと思いましたが、立ち仕事に耐えられる自信がない。イベントサークルのリーダーなどといったギャルとしてのフロントランナーを全うできるほどの自信もない。必然的に女子大生という新たな価値に向かいました。全然勉強してなかったのに、難関大にさらっと合格して、仲間たちに「慶応受かったんだって? へー、すごいじゃん。それって難しいんでしょー」と、何げなく言われる。勝ちですよね。高3の夏、仲間には「鈴木は死んだ」ことにして連絡を絶ち、私の受験勉強は幕を開けました。

ギデンズ先生*2近代人の鑑! というかも知れない*3。(今でもそうかも知れないけれど)若い頃、私は〈今の自分〉(この「刹那」)に対して、こんなにリフレクシヴなモニタリングをしたことはなかった。

誰しもが両義性を抱えながら生きてると思いますが、私は女子高生や女子大生といった価値に、アイデンティティーを依拠していた一方、「この子はこういう子だ」といった枠に押し込まれることが嫌でした。女子高生であり渋谷に所属するギャルであり勤勉な受験生だった。その後は、エリート女子大生でありキャバ嬢でありAV女優だった。
社会学をちょっと囓った人なら、境界人(マージナル・マン)という言葉をすぐさま思い出すのでは?
彼女の(これまでの)人生において大きな転機は4回ある;


ギャル→女子大生
女子大生→AV女優
大学院生→新聞記者
新聞記者→文筆家


ギャル→女子大生という転換と新聞記者→文筆家という転換は、自己に転換の責任が帰属されている。それに対して、女子大生→AV女優という転換と大学院生→新聞記者という転換では、転換の責任は他者、それも特定の男に帰属されている。「付き合っていたホストに人生をドライブされて、キャバ嬢になって、ホストクラブに通って、スカウトされてAVに出ていました」。また、「大学院卒業後に、またもや付き合っていたテレビ局のチャラリーマンにドライブされて日経新聞記者として昼のオネエサンさんに転じました」。男に「ドライブされ」たその先は、「夜」と「昼」の違いはあるにせよ、「オネエサン」なのだった。
鈴木さんを巡っては、最近、


林グンマ「元AV女優の社会学者・鈴木涼美が語るセックスワークと貧困…本当の貧困は風俗に入った後に」http://lite-ra.com/2015/05/post-1127.html
桃子*4「「元AV女優」の過去を暴き、女性を記号まみれにして大悦びのオジサンたち」http://mess-y.com/archives/13066/2


を読んだ。

*1:Mentuoned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141004/1412363750

*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050608 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071205/1196824553 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060810/1155212250 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060810/1155212250 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070930/1191131395 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071216/1197831560 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080814/1218738813 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080930/1222748469 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101125/1290694764 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110420/1303277092 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110429/1304048261 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110718/1310956516 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20111129/1322590969 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120603/1338718949 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120607/1338996374

*3:Cf. eg. 『近代とはいかなる時代か?』や『モダニティと自己アイデンティティ』。

近代とはいかなる時代か? ─モダニティの帰結─

近代とはいかなる時代か? ─モダニティの帰結─

モダニティと自己アイデンティティ―後期近代における自己と社会

モダニティと自己アイデンティティ―後期近代における自己と社会

*4:http://blog.livedoor.jp/momoco_omocha/