鷲田清一『哲学の使い方』

哲学の使い方 (岩波新書)

哲学の使い方 (岩波新書)

今週初めに、鷲田清一『哲学の使い方』*1を読了。


はじめに


第一章 哲学の入口
1 哲学の手前で
2 哲学の着手点――一つの例題
3 哲学のアンチ・マニュアル
第二章 哲学の場所
1 哲学とその〈外部〉
2 哲学の知――あるいは「技術の技術」
3 哲学と「教養」
第三章 哲学の臨床
1 哲学の[現場」
2 哲学のフィールドワーク――哲学の臨床・1
3 ダイアローグとしての哲学――哲学の臨床・2
終章 哲学という広場


主な引用文献一覧

『哲学の使い方』というのは或る意味でとても逆説的なタイトルだ。何しろ、著者は「はじめに」で「哲学はとりあえずの解答を得るためのマニュアルではありえない」と言ってしまっているからだ(p.iv)。また、「アンチ・マニュアル」という言葉も使用している。
本書のクライマックスは、対話的/市民的/公共的実践としての哲学ということが謳われる第3章ということになるのだろうけど、ここでは、第1章3節「哲学のアンチ・マニュアル」から、眺めの引用をすることにする。或る意味でそのまま全体を代表するような部分。

(前略)政治、ケア、描画のいずれにおいてももっとも大事なことは、わからないもの、正解がないものに、わからないまま、正解がないまま、いかに正確に処するかということである。そういう頭の使い方をしなければならないのがわたしたちのリアルな社会であるのに、多くの人はそれとは反対方向に殺到する。わかりやすい言葉、わかりやすい説明をもとめるのだ。だがほんとうに大事なことは、困難な問題に直面したときに、すぐに結論を出さないで、問題がじぶんのなかで立体的に見えてくるまでいわば潜水しつづけるということである。知性に肺活量をつけるというのはそういうことである。目の前にある二者択一、あるいは二項対立に晒されつづけること、対立を前にして考え込み、考えに考えてやがてその外に出ること、それが思考の原型なのに、そうした対立をあらかじめ削除しておく、均しておくというのが、現代、人びとの思考の趨勢であるようにおもえてしかたがない。哲学はこういう趨勢に抗って、知性のそういう肺活量を鍛えるものである。
ひとは、思いどおりにならないもの、理由がわからないものに取り囲まれて、苛立ちや焦り、不満や違和感で息が詰まりそうになると、その鬱ぎを突破するために、じぶんが置かれている状況をわかりやすい論理にくるんでしまおうとする。その論理に立てこもろうとする。わからないものをわからないまま放置しておくことに耐えられないからだ。だから、わかりやすい物語にすぐに飛びつく。
だが、ほんとうに大事なことは、ある事態に直面して、これは絶対手放してはならないものなのか、なくてもよいものなのか、あるいは絶対にあってはいけないものなのか、そういうことをきちっと見極めるような視力である。そのためには、たとえば目下のじぶんの関心とはさしあたって接点がないような思考や表現にもふれることが大事だ。じぶんのこれまでの関心にはなかった別の補助線を立てることで、より客観的な遠近法をじぶんのなかに組み込むことが大事である。(pp.66-68)
2つ、疑問を立てておくと、(「哲学カフェ」に例示されているような、対話的/市民的/公共的実践としての哲学と、アカデミックな営為としての哲学、つまり哲学者のテクストの読解としての哲学との関係が再度問われなければならないのではないかということ。また、哲学が「ダイアローグ」であるとして、その場合、これまで哲学的生の基本であるとされてきた独居(solitude)の哲学における居場所はどうなるのかということ*2

ところで、昨年末に、土井健司『キリスト教を問いなおす』を読んでいたのだった。小粒ながらとてもラディカルな本。


はじめに


第一章 平和を説くキリスト教が、なぜ戦争を引き起こすのか
第二章 キリスト教の説く「愛」とは何か
第三章 「神」の問題から神へ
第四章 信仰、祈り、そして「あなた」との出逢い
まとめ――結びに代えて


あとがき
本書で使用した邦訳書一覧

キリスト教を問いなおす (ちくま新書)

キリスト教を問いなおす (ちくま新書)

*1:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150417/1429297314

*2:solitudeを巡る鷲田先生のコメントとしては、例えば、小国綾子「あなたは今、孤独ですか。 哲学者、鷲田清一・大阪大副学長」http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20070418dde012100021000c.html(Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070420/1177093181