「講演の前の夜」(メモ)

よしもとばなな*1「人前に出る仕事」『婦人公論』1390、2013/2014、pp.180-181


少し抜き書き。


小さい頃から父が人前で話すのを見て育った。いつも「わあ、すっごく不器用」と思っていた。
恥ずかしいとは思わなかった。
父は伝えたいことをくりかえし熱弁するくせ(これは完全に姉にも私にも遺伝してる)があって、何回も同じことを言っているのだが、そこにあふれる「伝えよう」という気持ちが妙に胸を打つし、確かに何回も聞いているうちにだんだんわかってくるのだ。
父は講演の前の夜にいつも画用紙を張り合わせたこれがまたとてつもなく不器用な感じの長い紙を作って、そこにまた父にしかわからないとしか言いようがない目次みたいなものを書きつけて講演会場に持っていくのだが、そこには紙をちゃんと張り合わせてくれるアシスタントもいず、わかりやすく書く心もなく、ただただ自分の見つけたことを伝えたいという気持ちだけがしっかりとあふれていて、妙に感動した。
父の最後の講演は、もうほとんどだれにも止められない激しさだった。
車椅子に乗り、見えない目に唯一見えるライトだけを見つめ、同じことをただただ語り続ける姿は批判も浴びたが、私には神々しく見えた。
人に伝えたい、その情熱が生涯父を動かしていた力なんだと思う。(p.180)


大貫妙子*2「日常の中に見つけることができる宝物」http://book.asahi.com/ebook/master/2013121200005.html


よしもとばなな『すばらしい日々』の書評。曰く、


本の表紙に手帳の写真が載っている。
 ページのところどころに血が滲(にじ)んでいる。ばななさんのお父さまである吉本隆明氏の手帳である。
 糖尿病だった吉本氏がインスリンをうつ量を決めるための、血糖値を計ったメモだ。毎日針で指先をつついて血を流し、何年もの間一日も欠かさず記録し続けたという。
 後半はもう全く目が見えなくなっていて、何が書いてあるのかさえわからなくなっていた手帳だったが、「痛いのも注射も大嫌いだった父が、ただ生きて考え抜くために、最後の最後まで毎日針で血を出して、そのあと注射して…どんなに痛く淋しくいやでつらかっただろう」と、ばななさんは書いている。
 「私もいつか死や病気に向き合うことになるだろう。そのときは父のその孤独な闘いと執念を何回でも思い出したい」
また、その次の、

死は避けがたいものであるが、死というものの意味をいちばん痛烈に受け止めることになるのが、親の死なのではないかと思う。
 自分が還暦をむかえる歳(とし)になろうと、家族を持っていようと、親が生きている間は子どもである。その関係が消えてなくなってしまった時、親がとてつもなく大きなものであったことに気づく。
 その一方で、あらたに誕生がある。
 「子どもが生まれたとき、命の他にはなにもいらないと思った。すこやかに育ってくれたら、なにもいらないと」。親というのは、自分の子どもが何歳になっても我が子であり、近くにいても遠くにいても、ずっと自分の分身のように思い続けているものなのだ。その思いを無償で受け続けていた子ども。親の真心を思い知ること、それが親の死によってもたらされる深い喪失感なのかもしれない。
というパッセージは今の私にとっては他人事ではない。

ところで、上掲の『婦人公論』には中村うさぎさん*3へのインタヴュー「死線をくぐって私の「正体」がわかった」が掲載されている(pp.56-59)。曰く、


臨死体験はどうでしたかと、みんなに聞かれるんです。私の体験から言えば、パソコンやテレビのモニターを消すようなものでした。意識のどこかで、「これはもう死ぬな」と思った瞬間があって。心肺停止でモニターも「ピー」と言っていたんですけど、その瞬間にブラックアウト。眩しい光や三途の川が見えるということも、お迎えの人が来るということもなかったですね。その後のことは何も覚えていません。(p.57)

*1:http://www.yoshimotobanana.com/ Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080724/1216900400 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090519/1242744670 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090704/1246674562 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090814/1250268102 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090819/1250713380 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090902/1251861671 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090915/1252984161 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091101/1257048962 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091105/1257355781 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101025/1288020933 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110626/1309107227 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110713/1310486787 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120316/1331898804 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130828/1377710677 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131108/1383873218 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131218/1387381317

*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050807 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060418/1145330536 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060910/1157869765 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070427/1177703588 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070530/1180549562 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070708/1183913575 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070904/1188883198 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071017/1192645098 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080206/1202275989 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081101/1225513928 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090417/1239901340 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090427/1240770986 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090513/1242187244 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090610/1244633990 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090805/1249485120 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091003/1254541059 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091014/1255553835 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101013/1286918063 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101018/1287372090 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110308/1299514076 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110525/1306263427 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120309/1331226460 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130924/1379989309 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131106/1383697995 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131127/1385521304

*3:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071224/1198515665 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090711/1247277644 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120515/1337048270 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120611/1339377071 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130918/1379516809