彷徨える反ユダヤ主義者？ - Living, Loving, Thinking, Again

Lizzy Davies “Nazi SS captain Erich Priebke dies at 100 in Rome” http://www.theguardian.com/world/2013/oct/11/nazi-erich-priebke-dies-100
“Nazi war criminal Erich Priebke dies” http://www.bbc.co.uk/news/world-europe-24493079
“Nazi war criminal Priebke's funeral halted amid protests” http://www.bbc.co.uk/news/world-europe-24544380
“Body of Nazi Erich Priebke moved to Italian airport” http://www.bbc.co.uk/news/world-europe-24546450
Tom Kington “Nazi war criminal Erich Priebke's hearse kicked by protesters in Italy” http://www.theguardian.com/world/2013/oct/15/nazi-erich-priebke-hearse-kicked-protesters-italy
Tom Kington “Funeral of Nazi war criminal Erich Priebke is called off after clashes” http://www.theguardian.com/world/2013/oct/16/erich-priebke-funeral-cancelled-nazi-italy

すべては１人の老ファシストの死から始まった。
10月11日に羅馬の自宅で、元親衛隊大佐 Erich Priebke*1が100歳の高齢で死去した。彼は300名以上の老若男女が殺され、伊太利領内でナチスが行った最悪の虐殺事件であるArdeatine洞窟の虐殺*2（1944）の主謀者のひとり。これはレジスタンス勢力によって33名の独逸軍兵士が殺されたことに対する報復として行われた。ヒトラーが自ら10倍返しだ！　と叫んだと伝えられる。戦後、正体を隠して50年以上アルヘンティナで生活していたが、1995年に米国のTV取材班によって正体を暴露され、逮捕され、さらに伊太利に送られ、裁判にかけられ、終身刑の判決を受けたが、高齢であることと健康上の問題が配慮され、刑務所への収監はされず自宅軟禁が認められていた。
彼の死に際して、ヴァティカンは羅馬市内のあらゆるカトリック教会で彼の葬儀を行うことを禁止した。それに対して、カトリックから分離した宗教組織Fraternitas Sacerdotalis Sancti Pii X（Society of St. Pius X／聖ピオ十世会）*3が引き受けることになり、羅馬郊外のAlbano Laziale*4にあるその教会で葬儀を行うことになったが、その周辺では葬儀に抗議する反ファシズムのデモ隊と極右のデモ隊が衝突する一方、棺を積んだ霊柩車は教会に入ることをデモ隊に阻止され、また家族や友人の入場も警官隊によって阻止されたため、葬儀は中止となり、BBC の報道によれば、遺体は海外移送を射程に入れて、羅馬近郊の軍用空港に移されているという。
しかし、Erich Priebkeが50年以上住み続けたアルヘンティナ政府は遺体の引き受けを拒否しており、彼の生まれ故郷である独逸のHennigsdorf市*5も彼の埋葬拒否を宣言している。彷徨えるユダヤ人ならぬ彷徨える反ユダヤ主義者？　ナチス残党の埋葬を拒否するというのは、その墓がネオナチ（極右）の聖地と化すことへの懸念によるものだろう*6。
ところで、「聖ピオ十世会」はそもそもは第二ヴァティカン公会議以降のカトリックの近代化路線に対する保守派の造反の産物であるが、上に挙げた記事に典礼問題への言及はないけど、それに替わって目立つように言及されているのは、その英国人メンバーであるリチャード・ウィリアムソンン神父*7のホロコースト否定論*8なのだった。
Erich Priebkeに戻ると、彼は虐殺の責任に関しては、上司の命令に従っただけという、アレントの『イェルサレムのアイヒマン』で見出された意味における、典型的な〈アイヒマン的思考〉を行っていたのだった*9。