「選挙の結果」(メモ)

政治的思考 (岩波新書)

政治的思考 (岩波新書)

杉田敦*1『政治的思考』からメモ;


選挙の結果として表れたものを、私たちはどう受け止めるべきなのか。大切なのは、仮に結果が自分自身の考えとはかけ離れたものであったとしても、ひとまずそれを、自分の声であると認めることです。それは、「私たち」全体の声であって、自分の声そのものではないのですが、代表制という制度を通じて、それは私自身の声ということにもなっています。(略)こうした代表制というものは、いかにも納得がいきにくいものです。しかし、そうした制度を私たちが受け容れ、それにもとづいて選挙に参加している(棄権という選択をする場合も含めてですが)以上、まずは、その結果が、自分の声であるということを認めたほうがいい。その上で、なぜ自分の思いとは違う結果となっているのかを、自分の問題としなければならないのです。何が問題だったのか、そして、今後どうすべきなのかを考えることです。そうしたことを避け、選挙結果は自分とは関係のないものであり、したがって、自分としてはそんなものは無視する、という態度に出たのでは、何も始まりません。
ただし、だからといって、選挙結果だけが民意の表れだから、それ以外は無視できるとか、あるいは、選挙に勝った政治家にすべてをお任せすべきだとか、政府の意見を批判してはいけないとかいうことにはまったくなりません。政府がさまざまな条件の下で、ある政策を出してきたときに、自分たちがそれに納得できないということは十分にありえます。自分たちの代表としての政府が発している声も、政府が自分たちを代表している以上、自分たちの声ですが、それに対して抗議しているのもまた、自分たちの声なのです。自分の中にいくつかの異なる意見があって、それらが自分の中で「ああでもない、こうでもない」と対話することは、よくあることです。私一人の中でも考えが揺れ動いたり、意見が分かれたりすることがあるぐらいですから、私たち全体の中がつねに一つの意見で統一されていなければいけないというのは、とうてい無理な前提です。
私たち自身、すでにある現在の体制の中に組み込まれていますから、現状を一面では支えているわけです。もし私たちがこれを変えるとすれば、自分自身のある部分を否定していかなければならないわけです。自分たちがつくったものを自分たちが否定していかなければいけない。自分たちが壊そうとしている壁は実は自分たちの中にあるのです。壁は外にあるのではありません。(pp.118-120)