「弁護士だから」?


「橋下独裁批判をする人は「独裁」を正しく理解しているか疑問」*1と題する橋爪大三郎*2橋下徹擁護はやはり酷いものだといえる。何よりも無内容なくせにエラそうな上から目線の語り口がよくない。


橋下氏が仮に国政に打って出て、絶大な人気を得たとしても、独裁者のようになる可能性はないだろう。なぜなら彼は、弁護士だからだ。

 弁護士は、「ひとの話を聞き」、「ひとの利益を考え」、それを実行するための「法律的手段を考える」のが仕事で、橋下氏もそれをやってきた。

というのには笑ってしまうしかない。弁護士出身の独裁者としてはロベスピエールという有名人がいまっせという突っ込みは誰でもが思いつくことだろう*3。また橋下の「弁護士」活動がどういうものだったのかは(例えば)中島岳志氏の「橋下徹の言論テクニックを解剖する」*4とかが参考になるのでは?
ところで、「独裁(dictatorship)」については僭主政(tyranny)や専制主義(despotism)などとの異同を含めて詳しく考えなければいけないということはある*5。しかし橋下徹が「独裁」かどうかという巷の語りで問題になっているのは、そのような厳密な学問的準位の話ではないだろう。もっと俗な、(例えば)ブラック企業のワンマン社長というような準位の話だろう*6。橋下現象というのは「政治家の理想形」が「ブラック企業のワンマン経営者」とされていることを前提に存立しているのではないかということは以前述べた*7。こうした俗な準位を前提にしても、橋爪氏が

アドルフ・ヒトラーが独裁者になったのは、ワイマール共和国の議会が、全権委任法といって、議会の権限を無期限でヒトラーに委任するという議決をしたから。地方自治体は法律の制定権がないし、明確な憲法違反だから、どう転んでも「独裁者」が生まれる気づかいはない。

 国政では、一人の権力者が独占的に法律の制定権を手にしてしまう可能性がある。国民が愚かで、権力者に絶大な人気があった場合は、議会が法律の制定権をその権力者に渡してしまえば、可能となる。

と言っていることの是非はどうなのだろうか。俺は逆じゃないかと思うのだ。先ず橋下徹にせよ鹿児島県阿久根市竹原信一*8にせよ、知事や市町村長は直接選挙で選ばれるので、〈民意〉という権威を主張することができる。ブラック企業のワンマン社長が主張するのは創業者としてのカリスマだろうか*9。それに対して、「国政」というか中央政界においては(例えば)首相になったからといって、市町村や都道府県レヴェルの権威を主張することはできない。国会議員として当選することはたしかに(ローカルな)民意の反映だろう。しかし首相に誰がなるのかということは、既に〈民意〉を離れて、党派間・派閥間の力のバランスで決まるわけだ。さらに象徴天皇制のおかげで、首相から最終的な権威は剥奪されている*10

*1:http://www.news-postseven.com/archives/20120617_118171.html Cited in http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20120619/1340061229

*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060720/1153403176 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070530/1180549562 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080130/1201705768 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091128/1259384146 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100914/1284473658 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101004/1286217034

*3:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120401/1333302454

*4:http://www.magazine9.jp/hacham/111109/ Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20111112/1321120673

*5:初歩的にはhttp://en.wikipedia.org/wiki/Dictatorship を見られたし。因みに「独」という漢字に囚われすぎるのはよくないと思う。

*6:バス会社からクレームが来ませんように!

*7:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110918/1316350893

*8:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090819/1250656927 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091214/1260821177 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091222/1261450836 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100108/1262949466 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110111/1294728582 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110118/1295277736 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110627/1309199593

*9:その一方で、この手の人物は外部的な権威を卑屈に追い求めるという傾向もあるだろう。だからこそdiploma millの商売も成立するという側面もあるのだろうが。

*10:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071224/1198515665 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081110/1226297175 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091228/1261978660