承前*1
- 作者: モース研究会
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渡辺公三「レヴィ=ストロースからさかのぼる――自然・都市・協同組合」(in 『マルセル・モースの世界』、pp.69-88)
少しメモ。
マルセル・モースは(人類学者でありながら)「フィールドワーク」を殆どしなかった(p.78)。「インド古典学の素養をもったモースにとって、書物の世界は一つの重要なフィールドだったと思われる」(p.79)。
ただ、レヴィ=ストロースとの対比からすれば、そのブラジルへの旅立ちとほぼ同年齢の時期に、モースが積極的にコミットしていった「協同組合」の世界こそがモースにとってのフィールドだったのではないかと考えたくなる。じっさい協同組合運動へのコミットはモースに、西欧内部であるとはいえ国際会議をきっかけに多くの都市を旅する機会を与えている。そして協同組合の活動は、都市住民の消費者協同組合を社会主義者としてリードしようと意図するモースにとって、克服すべき保守的農民の利益を代表する農業生産協同組合の人々と出会い、ドイツで隆盛しつつあった農業協同組合の動向、あるいは経営者(ブルジョワ)の利害を代表する企業家共済組合の動向を見極め、そして何よりも古い人間関係の維持のメカニズムと、かつての慈善とは質を異にする新しい近代の文脈のなかでおこなわれる互恵関係や贈与交換の現場を見る機会であったと考えられる。おそらく都市生活者モースにとって、都市消費者と地方生産者と都市企業家がさまざまな交渉をくりひろげる協同組合活動の現場こそが都市と農村のインターフェイスとしてのフィールドであった。
都市生活者モースという言い方には、モースが今風に言えばシティ・ボーイとも呼べそうな都会のお洒落な青年の風貌をもっていたらしいことも念頭に置いている。スポーツ好きでボクシングやフェンシングもこなしたこの「青年」は、パリに出て成功したユダヤ系資産家の娘と結婚して生活の基盤を固めた叔父のデュルケムとはその点でも違った生き方を選んだともいえる。ふとフランソワ・トリュフォーの映画『突然炎の如く』のジュールとジムを思い出してしまう。長い独身生活に終止符を打ったのはモースが六二歳のとき、原稿のタイプ打ちを手伝っていた一四歳若い女性との結婚だった。ときおりモースは、「女性は政治には向いているが料理をさせるものではない」とか、風変わりな言葉で若い弟子たちを煙に巻くことがあったともいう。(pp.79-80)
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- 作者: 渡辺公三
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モースは社会主義社会の実現を、一貫して都市市民、プロレタリアというよりは勤労者の自律的活動、自主管理能力を基礎において構想したと考えられる。勤労者に自生的ネットワーク、今風にいえばオートポイエーシスの可能性に賭けようとした。徹底した暴力批判と表裏一体となったそうした展望にとって、一握りのエリート集団による人為主義と上意下達の組織活動という意味での「政治」はもっとも唾棄すべき、避けなければならない事態だったはずである。しかし、「文明」世界で経済の破綻とともに生起したのはまさにそうした「政治」による社会の支配、すなわちボリシェヴィキからスターリン体制への移行とファシズムの展開だった。モースはそうした「政治」の動向を注視しつつ、人類学の領域で人間の活動のありようを根底から見直す方途をさぐっていたように見える。それは経済的活動の源泉を発見する試み(『贈与論』)であり、人間の社会形成の可能性の幅を確認するための民族誌の探究であり、自然に働きかける人間の初発の能力を確認するための技術論、技術論と密接にかかわる美学の探究だった。そうした一連のモースの探究の底には、人間の自生的な秩序形成力への根源的な信頼とオプティミズム、モース固有のヒューマニズムがあったように思われる。第二次大戦後、数年を生き延びることができたモースが、生き延びたにもかかわらずある知的な崩壊を示して過去を知る弟子たちに衝撃を与えた理由の一端には、あるいはこうした根源的な信頼とオプティミズムを強制的に断念せざるをえなくなったことがあったのではないだろうか。
モースの「人為主義」批判には悪しき人為主義をよりよきものによって代えるという志向がある。(pp.86-87)
- 作者: M.モース,有地亨
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- 作者: エドマンドリーチ,Edmund Leach,吉田禎吾
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