Nation(マルセル・モース)

マルセル・モースの世界 (平凡社新書)

マルセル・モースの世界 (平凡社新書)

渡辺公三「モース人類学あるいは幸福への意志」(in モース研究会『マルセル・モースの世界』、pp.45-66)からメモ。
マルセル・モースは第一次世界大戦中、軍務に服し、研究活動を休止していた。研究が再開されるのは1920年である。


二〇年、活動再開の最初のモースの公刊論文はロンドンのアリストテレス協会の招聘をうけてフランス語でおこなわれた「ナシオンと国際主義」という講演原稿だった(OE, 3: 626-634)。その議論の基礎には著者モースの死後、アンリ・レヴィ=ブリュルの序文を付して第三期『社会学年報』に発表された(五六年)『ナシオン(Nation)』という手稿があった。オーストリア=ハンガリー帝国の崩壊と国際連盟の創立に象徴されるように、第一次大戦後の世界秩序が、また海の物とも山の物とのつかない「ナシオン」なるものに支えられることを見てとったモースは、早速、その解明にとりかかったのである。ナシオンは民族とも国民社会とも訳せる多義的な言葉であり、「エタ(国家)」と連結して「エタ・ナシオン」つまり国民国家という言葉にもなる。(後略)(p.58)
渡辺氏はモースのこの講演の内容を詳しく紹介してはいないのだが、ハンナ・アレントが『全体主義の起源』第2部で、第一次大戦を、「国民国家」の破綻と(全体主義へと至る)ナショナリズムの暴走の境目として論じていることを考え合わすと、興味深い。
The Origins of Totalitarianism (Harvest Book, Hb244)

The Origins of Totalitarianism (Harvest Book, Hb244)