樋口泰人「『あらかじめ失われた恋人たちよ』『原子力戦争 Lost Love』 What's going on〜我々はどこにいるのか」『intoxicate』95、p.81
田原総一朗/清水邦夫監督の『あらかじめ失われた恋人たちよ』*1がDVD化されたんだね。
樋口泰人氏の評文から少し抜き書き;
この後で、『あらかじめ失われた恋人たちよ』と同時にDVD化された黒木和雄*3の『原子力戦争 Lost Love』(1978)と『あらかじめ失われた恋人たちよ』とが比較されている(これはまだ観たことがない)。樋口氏によれば、そこでは原田芳雄*4が「石橋蓮司的な身体を引き継いでいる」。また桃井かおり/加納典明の身体は山口小夜子*5に引き継がれる。但し「肉感的な身体」(桃井/加納)と「影のような身体」(山口)という対立。
71年、大島渚はすでに彼の名前を世界に知らしめた数々の作品を撮り終えて、翌年の『夏の妹』を最後にしばしの休息に入る。吉田喜重もほぼ同様。それと入れ替わるように詩人でもあり劇作家、演出家としても名を成していた寺山修司が長編デビューを飾る。若松孝二がパレスチナに出向いての『赤軍派―PFLP世界戦争宣言』を発表し、日活がロマンポルノの製作を始めたのもこの年である。だからテレビの田原総一朗と演劇の清水邦夫とが共同監督して、まったくの素人だった桃井かおりや当初はスチールカメラマンとして雇われたはずだった加納典明を俳優として起用したのもまた、もはや開拓されていた道を堂々と歩み出しただけのことかもしれない。いずれにしても1本の独立した作品というよりこの作品がそこにあることによって見えてくる背景の広がりが、この作品を今も興味深いものにしているのだろう。つまりこの作品自体が「今ここにある身体」そのものになっているということでもある。いや、そうあろうとする欲望が、この映画を作らせている言うべきなのかもしれない。
その40年後、そこにある何かを映し出すのではなくかつてそこにあったはずの何かの痕跡をなぞるようにして、現実世界に浮かび上がらせたデジタル化された身体の奇妙な輝きを、それは予感しつつも恐れているかのようだ。『あらかじめ失われた恋人たちよ』での石橋蓮司のバランス悪く痩せた身体は、その恐れの中でますますバランスを欠いていく。それはディズニーからタンタンへと受け継がれる運動の見事なバランスと滑らかさ*2とは対極にあるがゆえに、今まさに必要とされる身体なのかもしれない。
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*1:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070409/1176141488
*2:冒頭でスピルバーグの『タンタンの冒険』が言及されている。
*3:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060414/1145029310
*4:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110720/1311101778
*5:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070820/1187624219
*6:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101027/1288153768