承前*1
呉岩「小松左京:日本科幻霊魂的消逝」『上海書評』2011年8月14日、p.7
呉岩氏が小松左京を知ったのは、『日本沈没』が刊行されてて間も無くの頃、『参考消息』という新聞*2に、小松左京という作家が「頽廃的」な「講述日本列島全部沈没的作品」を発表したという記事を読んだときだったという。また、それと略同時期に或る雑誌で日本の「進歩作家」の『日本沈没』に対する評論を読んだという。
中国で『日本沈没』が最初に刊行されたのは1975年6月で、李徳純(中国社会科学院外国文学研究所)による部分訳(人民文学出版社)。それに附された「出版説明」には、この小説は「為一小撮*3軍国主義勢力向外侵略製造反動輿論」であると書かれていた。また、「消毒」のために「偉大的日本人民沈没不了!――評反動小説《日本沈没》」*4と村上幸一という日本人の「世界末日思想和軍国主義」という2本のテクストが収録されていた。この訳本は1986年に吉林人民出版社から再版されている。『日本沈没』の全訳本は2005年に高暁剛、張平、陳暁琴の訳により四川科技出版社から刊行されている。
中国での小松左京作品の刊行はほかに、『物体O』(金若静による抄訳。江蘇文藝出版社、1981)、『宇宙漂流記』(王彦良、王健宜訳、新蕾出版社、1987)、『空中都市008』(克明訳、安徽少児出版社、1992)、『無尽長河的尽頭』(『果しなき流れの果に』)(盛樹立訳、上海科普出版社、2007)があるという。『無尽長河的尽頭』にはこの作品が「屈原式《天問》*5的現代版」であるとする姜雲生の序文あり。また、中国のSF作家で小松左京の影響が強い人として、韓松と潘海天が挙げられている。中国のSF小説については、例えば困困「仍有人仰望星空」(『CHUTZPAH! 天南』02*6)を参照のこと。
なお、呉岩氏は2007年に東京で開催された世界SF大会で小松左京本人に会っている。
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*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110729/1311868234
*2:『参考消息』というのは中堅以上の幹部に世界情勢を報せるための新聞で、一般人民の購読は禁止されていた。或る時代までの中国において、『参考消息』を読めるということは或る種の特権性を表していたが、改革開放とともにその特権性はしぼんでゆき、私が1989年に中国に住んだときには、大学生も幹部扱いということで読んでいた。現在ではそこらのキオスク(報刊亭)でも売っている。買う人はいるのか。
*3:一小撮=ひとつまみの
*4:中国人によって書かれたものらしいが、呉岩氏は誰が書いたのかを明記していない。
*5:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110426/1303840125