欠陥翻訳騒動

http://gigazine.net/news/20110730_randomhouse/ *1


曰く、


読者からのタレコミによると、株式会社武田ランダムハウスジャパンが2011年6月に発売した「アインシュタイン その生涯と宇宙」上下巻のうち、下巻の内容になんと機械翻訳された部分が含まれており、回収騒ぎになってしまったようです。しかもこの件に関わった翻訳者がAmazonのレビューで事情を詳しく説明しており、普段はあまり表沙汰になることのないトラブルの中身がわかるようになっています。
版元のお詫びはhttp://www.tkd-randomhouse.co.jp/news/index_0701.html
また、訳者のひとりである松田卓也*2の〈内部告発〉はhttp://www.amazon.co.jp/dp/4270006501/
そもそも「機械翻訳」なんてカスだと思っていたけれど、ネット上でときどき見かける、「機械翻訳」について夢みたいなコメントを発していた人たちはどういう感想を持ったのか。
幾つかの疑問。
そもそもこの翻訳出版の企画自体がどのように立ち上がったのかが検証されるべきだと思う。監訳者の二間瀬敏史氏*3松田卓也氏の〈内部告発〉では被害者扱いされている。Wikipediaによれば、二間瀬氏と松田氏は師弟関係にあり、これまでに共著や共訳もこなしているので、あまり強いことはいえないということはあるのかも知れない。ただ、翻訳の質の良し悪しに拘わらず共同翻訳において必然的に発生する監訳者としての仕事がなされていないということはいえるだろう。実際の翻訳者が異なれば、どうしても訳語の不一致が発生するし、人それぞれ日本語の文体は異なるので、訳語を統一し、文体のばらつきを均すというのは監訳者の重要な仕事だろう。また、そもそも翻訳者の人選を誤ったともいえる。二間瀬氏がもっと監督しやすい人選をすべきだったのだ。例えば子分の大学院生を中心にティームを編成するとか。
それから出版期限の問題。俺の知っている限りでいえば、翻訳権の取得には仮契約と本契約がある筈で、本契約は訳稿が或る程度出揃って出版の目途が立った段階でなされる。なお、この段階以降、エージェントを通して原著者に問い合わせをすることが解禁される。スケデュールが本格的にタイトになってくるのは本契約の段階からなのだが、本契約を急ぎすぎたのではないか。
ところで、翻訳の質はインターネット時代に入って格段に向上している筈なのだ。例えば、


He opened a cap of Anchor Steam.


という文を捏造してみる。Anchor Steamというのは桑港でつくられている麦酒のブランドであるが*4、これがわからないと奇妙な訳文が出力されることになる。今なら、Googleにかけさえすれば、立ち所にAnchor SteamをつくっているAnchor Brewing Companyのサイト*5やWikipedeaのエントリーを検索し、Anchor Steamについての説明を読んだり写真を見たりすることができる。インターネットのない時代にこうした作業を行うのにどれだけの手間や暇がかかったのかを想像してみてほしい*6

翻訳を巡っては、http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050703 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050801 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060816/1155708186 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060826/1156613177 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071102/1194030402 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080109/1199847126 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090706/1246906032 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100831/1283190227 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110120/1295514427 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110717/1310878095等も御笑読あれ。