3と薔薇十字会とサティ(メモ)

エリック・サティ (白水Uブックス)

エリック・サティ (白水Uブックス)

アンヌ・レエ『エリック・サティ』(村松潔訳)からメモ。
サティ*1の「ヴェクサシオン」について。「これは唯一のモティーフを反復することによって成立する作品なのである」が、


このモティーフの特徴は、それに続く二つの和声づけによって補われると、6度の和音――短、長および増和音――とふつう「三全音」と呼ばれる増4度(または減5度)の和音の一種の黄道十二宮図のようなものが出来上がることである。主題そのものは、半音階の十二音のうち十一音(ハ、嬰ハ、ホ音が数回繰り返されている)を使って、合計十八音(6×3)で構成されている。このため全体は「3」と「6」の完全かつ「永久的」な結合を象徴するものになっている。
薔薇十字会の「三位一体」の思想を象徴しているのでないとすれば、この数字に一体どんな意味を見出すことができるのだろう? 第三の神格の崇拝。薔薇十字会では、三つの誓いを立てることが要求され、三つの位階(従士、騎士、上級騎士)が峻別される。また秘法伝授のレベルによって、活動は(薔薇十字会に結び付いた)奉仕団の活動、(集会所に入る資格のある)有志会の活動、(聖杯の守護者である)信者会の活動の三種類に分類される。美と慈愛と繊細さが三つの「公認」の美質であり、会合は常に六三人で開かれるのである。(pp.51-53)
また、

この時代[薔薇十字会時代]以前および以降のサティの作品では、「3」という数字が支配的な位置を占めている。それ以前には三つの『サラバンド』があり、それ以後には(少なくともタイトルに偽りがないとすれば)三つの『梨の形をした小曲』がつくられ、さらにユーモアの時代の作品はすべて三曲一組である。したがって、作品を構成する曲の数という観点からすれば、3という数字が姿を消したのは薔薇十字会「時代」の特徴だということになる(当時、サティは注文に応じて、あちらで舞台音楽を作曲したりこちらで前奏曲をつくったりしていたのだから、これは当然のことである)。しか、6度に支配的な役割が与えられたおかげで、「3」という数字は彼の作品のなかでひそかに息づいている。確かに、この音程は二つの3度を重ねたものではないかもしれない。しかし、「6」という数字は「3」プラス「3」を暗示している。それこそまさに「3」という数字そのものへの執着を示しているのではないだろうか?(p.50)
結局サティは「薔薇十字会」以前から「3」に拘っていたことになるけど、その理由についてレエ氏は語っていない。サティが薔薇十字会に関わったのは直接的には作家のジョセファン・ベラダンの影響であるが(pp.35-36)、もしかして「3」への拘りが彼を薔薇十字会に引き寄せたということは考えられないか。
薔薇十字会については最近http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110703/1309670384でほんのちょこっと言及している。また、薔薇十字会についての知識を得たのは主に種村季弘『薔薇十字の魔法』*2によってだった。サティの音楽史的意義について昔読んだ本だと、諸井誠『音楽の現代史』とか渡辺裕『聴衆の誕生』とか。
音楽の現代史―世紀末から戦後へ (岩波新書 黄版 358)

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聴衆の誕生―ポスト・モダン時代の音楽文化

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