「王たち」など

PLASTIC ONO BAND

PLASTIC ONO BAND

John Lennon Plastic Ono Band*1を聴いた感想を述べよといわれたら、先ず〈痛さ〉と答えるだろう。1曲目の鐘(glas[弔鐘]?)のSEから始まる”Mother”。最後に、


Mama don't go
Daddy come home
が何度も、しかも悲痛さを増しながら繰り返される。Paul de Noyerのライナーノーツによれば、この〈痛さ〉は”we escape our psychic pain by uncovering the scars of childhood”ということを主張した米国の精神医学者Arthur Janov*2の著書The Primal Screamジョン・レノンが読んだ効果であるという。ところで、この曲を聴いて、リンゴ・スターが凄いドラマーだということを初めて認識した。また、”Mother”はアルバム最後の”My Mammy's Dead”と対になっているということはいうまでもない。“Love”では様々な「愛」の定義が試みられるわけだが、〈痛さ〉ということだと、どうしても”Love is wanting to be loved””Love is asking to be loved””Love is needing to be loved”という部分に注目してしまう。”God”の

I just believe in me
Yoko and me
And that's reality
に感じるのは〈唯我独尊〉的なものではなく、否定の末に辛うじて残った薄皮一枚という危うさ。或いは、「夢は終わったのだ(The dream is over)」という脱力感。さて、

I don't believe in magic
I don't believe in I-ching
I don't believe in Bible
I don't believe in tarot
I don't believe in Hitler
I don't believe in Jesus
I don't believe in Kennedy
I don't believe in Buddha
I don't believe in Mantra
I don't believe in Gita
I don't believe in Yoga
I don't believe in kings
I don't believe in Elvis
I don't believe in Zimmerman
I don't believe in Beatles
「信じない」ものが列挙されていく。魔法、易経、聖書、タロット、ヒトラー、耶蘇、ケネディ仏陀真言、『バガヴァッド・ギーター』、瑜伽、エルヴィス・プレスリー、ロバート・ジンマーマン(ボブ・ディラン)、そしてビートルズ。ただわからないのは、瑜伽とプレスリーの間にあるkings。「王たち」って具体的に誰? 小文字になっているのが妙なのだが、もしかしてそれは誤植で、Kingsなのか。そうすると、B. B. キング、アルバート・キング、フレディ・キングという3人のキング、ブルース・ギタリストのことなのだろうか。たしか岩谷宏(『ビートルズ詩集』)はそう解していたと思う。それだと、ブルースを信じない、ロックンロールを信じない、フォークを信じないということになって、意味の連鎖としては滑らかにはなるのだが。この曲でピアノを弾いているのはビリー・プレストン*3