気になったのは、「同氏が抑うつ状態にあり精神的な問題を抱えていたことが「犯行の動機と、恐ろしい犯罪を実行できた理由を示している」と指摘した」という部分。「抑うつ状態」であることが「恐ろしい犯罪」の動因になるというのは、どういう精神医学的或いは心理学的な根拠によるものなのか。常識的な知識によれば、鬱病では、生のエネルギーそれ自体が低下し、悪事にせよ善事にせよ、何か行為すること自体が困難になるのではなかったっけ。鬱病のいちばん沈んだ時期ではなく、寧ろ回復期に自殺が多いというのはこれによる。また、「抑うつ状態」によって善悪の判断ができなくなるということも聞いたことがない。
炭疽菌事件犯人は自殺した研究者/単独犯行、捜査終結2010/02/20 13:50
【ワシントン共同】米司法省は19日、2001年10月以降に米国で炭疽菌入りの手紙が新聞社や上院議員事務所に相次いで送りつけられ、5人が死亡した事件について、08年に自殺した米陸軍感染症医学研究所の研究者ブルース・アイビンス氏=当時(62)=の単独犯行と結論付ける捜査報告書を発表し、捜査を正式に終結した。
事件は米中枢同時テロの直後に発生。バイオテロへの恐怖をあおり、米社会を震撼させた。
捜査報告書は、炭疽菌の型の分析から、アイビンス氏が実験室で培養した菌が事件で使用された菌を生み出したと断定。事件発生の直前に長時間実験室にこもっていたことなど「強力な状況証拠」と併せ、アイビンス氏の犯行と結論付けた。
また同氏が抑うつ状態にあり精神的な問題を抱えていたことが「犯行の動機と、恐ろしい犯罪を実行できた理由を示している」と指摘した。
アイビンス氏は事件発生後、炭疽菌の専門家として捜査に協力。検察当局が容疑者を同氏に絞り込み、起訴の準備を進めていた08年7月に解熱剤を大量に服用し自殺した。同氏の弁護士らは無実を主張していた。
http://www.shikoku-np.co.jp/national/international/article.aspx?id=20100220000141
米国の報道では、『ワシントン・ポスト』のJoby Warrick “FBI investigation of 2001 anthrax attacks concluded; U.S. releases details”*1を読んだ。この記事ではdepressionという言葉は見つからなかった。この記事によると、Bruce E. Ivinsを犯人と断定した根拠のひとつは、自殺の数か月前(2008年6月)に彼が犯行を暗に認めた会話内容を捜査当局が盗聴したというものだ;
たしかに、「正常な精神状態なら(in my right mind)そんなことしなかった」とIvinsは言っているようなのだが、これに続く内容も含めて、「抑うつ状態」との関係や如何に?
In a new disclosure, Justice officials released a transcript of a secretly taped conversation in which Ivins suggests that he might have committed acts that he could no longer recall."I, in my right mind, wouldn't do it," Ivins is quoted as saying of the anthrax attacks in June 2008, weeks before his death. But he added, "It worries me when I wake up in the morning and I've got all my clothes and my shoes on, and my car keys are right beside there."
The transcript was among hundreds of evidentiary findings and exhibits that Justice officials say add up to an overwhelming case against Ivins, despite the lack of a confession, eye-witnesses or a single fingerprint linking the scientist to the crime.
なお、物的証拠(指紋とか)も目撃者証言もないので、批判派は捜査当局が集めた証拠では(仮令Bruce E. Ivinsが生きていたとしても)公判なんか維持できないよと批判している。それから、不謹慎ではあるが、陰謀理論系の人の反応が楽しみだということもある。
さて、〈炭疽菌〉を巡っては個人的な恨みがある。数年前のことだが、アルバイト先に出かけたら、そのビル自体を警察が封鎖していたのだ。〈炭疽菌〉らしき粉の入った封筒がそのビルの或るテナントに送りつけられたのだという。幸いにして、送られたのは本物の炭疽菌ではなかったのだが、その日の給料は吹っ飛んでしまった。その封筒を送った奴に対しては、金返せ! とはいっておきたい。