承前*1
- 作者: レーヴィット,熊野純彦
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/10/16
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カール・レーヴィット『共同存在の現象学』、II「共同相互存在の構造分析」第一部「共同世界と「世界」ならびに「周囲世界」との関係」第3節「「生」の四つの根本的意義とその連関」の続き。
生の「四つの根本的意義」のうち〈実存〉としての生を巡って。ここで焦点となるのは「自殺」の問題。また、「生物」という言葉が突然出てくる。
この後は、「哲学的実存にとって」の「正統的な根本問題」としての「自殺」(pp.76-77)。特に「自殺が悖理である」とするカントと、「自由に発する行為のひとつ」だとするヒューム(p.77)。
(前略)一箇の生物がひとりの人間であるというたんなる事実にもとづいて、その生物はたしかにじぶんにとっても他者に対しても意義をもつ。とはいえ当の生物は、それゆえただちに「意味」を有するのではない。人間的な生は、したがって最終的かつ実存的には、なによりもまず有意味−無意味という意義方向(Bedeutungsrichtung: sinnvoll-sinnlos)において規定される。人間がおよそみずからの生の意味そのものを問いうることは――人間がそれを問いうるからこそ生の意味といったものがある――、人間の生が原則的に問題となりうることを意味する。人間的な生が根底から問われるにあたいするのは、他方、それが存在論的に両義的であり、したがって解釈可能であるからである。(略)人間的な生が問うにあたいする−両義的な非自然性を有していることを根底から表現しているのは、自殺という、人間に特有な可能性である。ここに、意味への問いが否定的なかたちで表現されているからだ。一義的に自然的な生物は、じぶんに固有の声明を否定することができない。みずからの存在体制が分裂していることにともなう、じぶん自身への自由、したがってじぶん自身からの自由が、その生物には欠けているからである。生物が純粋に自然にしたがって生きているとき、生物は自然的に死ぬことができるだけである。生物は存在するがゆえにすでに、また存在すべきなのである。人間は他方、生きているからといって、それ自体としては(eo ipso)いまだ存在すべきであることにはならない。人間が自然に生きていることは、人間が存在しようと意欲することとただちには一致しない。人間はじぶんの自然的な現存(Dasein)をみずからの精神的実存によって否定することができるのだから。じぶんが存在しようと意欲するかぎりでのみ、確実なしかたでまた生きることができる。明確なしかたでみずからの生であろうとすることは、与えられたものを引きうけることを意味する。その現存在(Dasein)をこのように二重化することで人間は、その根源的な分裂に対して身をまもることができる。人間は自体的に(en sich)すでに現にあるものをじぶんに対して(fur sich)肯定するのだ。生を否定するのか肯定するのかという、ショーペンハウエルとニーチェの問いは――ところで両者のいずれも、事実としてはじぶんの理論と相反するふるまいをしているのだけれども――、したがって真正の問題である。(略)私はすでに生きているからこそ、私の現存在たろうと意欲することができる。私は他方、存在せんと欲するかぎりにおいてのみ、生きることができる。
現実に死んでゆく過程で人間的な現存在は、そのおわりにいたるまで自然的なしかたで生きてゆく。非自然的な誘因による死の場合でもおなじである。可能的な「おわりへの存在」にあって――キルケゴールの表現をかりて語るなら――非自然的な「実存の術」が遂行される。とはいえ自殺を念うことは、人間にとって自然的な非自然性である。自殺念慮においてのみ、人間がみずからの生に同意するか同意しないかについて現実に決定する、現実的な可能性がある。哲学がこの可能性に対して、積極的な決断のほうを前提とみなすことはゆるされない。(後略)(pp.74-76)
「おわりへの存在」には、ハイデガー『存在と時間』p.255ff.(岩波文庫版、中p.241ff.[第52節「終りへの日常的存在と、死の完全な実存論的概念」])の参照を求める原註あり(ibid.)。「おわりへの存在(Sein zum Ende )」を巡っては、細川亮一『ハイデガー入門』p.143ff.もマークしておく。
- 作者: マルティン・ハイデガー,Martin Heidegger,桑木務
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- 作者: 細川亮一
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