承前*1
- 作者: レーヴィット,熊野純彦
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/10/16
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 26回
- この商品を含むブログ (33件) を見る
ここで、先ず「周囲世界」がより広い意味において捉え返される;
ここでは先ず(2)の問題が論じられる。
ほんらい私たちと共にというしかたではなく、私たちの周囲でというかたちで生き、手もとにあり、また手まえにある(zuhanden und vorhanden ist)世界を、私たちはもっとひろい意味での周囲世界と名づけることにしよう。その場合、周囲世界のうちに共同世界が立ちあらわれるしだいをめぐる問題は、ふたつに分かれることになる。(1)*2自然的に息づいている周囲世界のなかに、人間的な生の関係がどのように立ちあらわれるか。(2)人間がつくり上げる製作品の世界のなかで、人間的な生の関係がどのように立ちあらわれるのか。(p.85)
レーヴィットはここでは基本的にディルタイに依拠しているが、ハイデガー『存在と時間』への参照を指示している。第15節「環境世界で出会う存在するものの存在」。
実践的な生の関心にあって、人間たちは互いに依存しており、共同でいとなんでいる仕事のために相互に理解しあわなければならない。道具を使いこなす単純な行為、たとえばノコギリで木を挽くといった行為は、その目的が理解されるだけで理解可能となる。行為の目的がそこから生じる、生の連関の全体へと立ちかえることは、そこでは必要ではない。家具が調度品としてぞくしている人間的な生に対して、その家具が有する間接的な関連から、ひとつの部屋に置かれた家具は理解可能なものとなる。生への従属が、これら家具を存在させ了解させるのであり、この従属を見すごすなら、家具は「ばらばらで無秩序に」ならべられていることにもなりうるだろう。家具は、それ自身としては特定の配列をもたないからである。(p.86)
- 作者: マルティン・ハイデガー,Martin Heidegger,桑木務
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1960/11
- メディア: 文庫
- クリック: 12回
- この商品を含むブログ (24件) を見る
残りは次回。
1 共同相互存在は、それ自身たいていは製作品によって(物件を介して)媒介されている(zumeist werkhaft (sachlich) vermitelt)*3。共同相互存在はたいていの場合、直接には〈私〉と〈きみ〉とのあいだの「人格」的な関係ではない。人格的関係ならば、共に存在することの目的が共に存在することそれ自体のうちにある。そこでは〈きみ〉自身が、私が−きみと−共に−在ることの目的なのであって、その関係はただ感覚とことばによって媒介されているだけなのである。
2 製作品によって(物件を介して)ひとつにされたこの共存在にあって、一者は他者を、両者の共存在にぞくするなにのために――その物件を介した「目的」――から理解する。そこで理解不可能なことがらが立ちあらわれたときはじめて、よりひろい生の連関へと還帰することが動機づけられるにすぎない。さしあたりひとが相互に知りあい接近するのは、共に存在することのそのつどの目的、つまり〈なにのために〉が要求するところを超えないし、それを下回ることもない。
3 これに即応して、共通な作業にぞくする目的に対する「手段」、その手段を介しあるいはその手段によって(Womit)ある仕事が遂行されるもの、つまり道具が、(その道具が人間に役だつ)なにのために(Wozu)から理解される。ノコギリや椅子がなんであるかは、なにのためにそこにあるかによって理解されるのである。すなわちノコギリなら挽くために、椅子ならば坐るために、そこにある。坐ることを知らない者は、椅子さえも理解しない。(後略)(pp.87-88)
ところで、「製作品」は、後にサルトルにおいては、(例えば)ペーパー・ナイフをネタにしながら、実存と本質の関係の問題として議論されることになるだろう(『実存主義とは何か』)。また、澤田直『新・サルトル講義』(p.63ff.)、海老坂武『サルトル』(p.78ff.)を取り敢えず指示しておく。
- 作者: ジャン=ポール・サルトル,伊吹武彦
- 出版社/メーカー: 人文書院
- 発売日: 1955/07/30
- メディア: 単行本
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
新・サルトル講義―未完の思想、実存から倫理へ (平凡社新書)
- 作者: 沢田直
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2002/05/01
- メディア: 新書
- 購入: 3人 クリック: 8回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
サルトル―「人間」の思想の可能性 (岩波新書 新赤版 (948))
- 作者: 海老坂武
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2005/05/20
- メディア: 新書
- 購入: 1人 クリック: 8回
- この商品を含むブログ (27件) を見る
*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091116/1258370011 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091118/1258573653 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091124/1259035863 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091125/1259117601 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091130/1259594080 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091201/1259668014 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091208/1260246416 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091212/1260644088 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091216/1260993224 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091223/1261595612 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091228/1262014708 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100105/1262716242
*2:原文は丸囲み数字。
*3:熊野氏はzumeistについて、「「さしあたり、たいていはzunachst und zumeist」というかたちで使用されるハイデガー用語でもある」と註している(訳註、pp.413-414)。