承前*1
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久野収、浅田彰、柄谷行人「京都学派と三〇年代の思想」(『批評空間』II-4、pp.6-33、1995)からメモ。http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091118/1258573653やhttp://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091124/1259035863にも関連して。
また、その少し後の柄谷行人の発言;
浅田 (前略)カントの場合は、認識と実践と情念というのは、根源的にはばらばらなんで、統一することはできないということだと思うんですけど、ロマン派はそれを情念をベースにして統一しようとし、ヘーゲルはさらにそれを弁証法的な歴史過程において合理化して、そのような統一に基づく共同体をつくろうとするわけですね。
久野 世界史的国家理性みたいなものを考えてすべてを統一的に扱った壮大なロマン主義的体系がヘーゲル哲学でしょう。ヘーゲルでいちばんいい著作は『精神現象学』であって、あそこで、感覚的な思い込みの確実性から最後の哲学的絶対知に至るまで、あたかもゲーテの『ヴィルヘルム・マイスター』の徒弟時代、修行遍歴時代からターミナルの親方時代までの自己発見、自己教育史のように、学問的経験を整理して昇っていく壮大な思想の経験が歴史の展開なのですが、いちばん問題なのは、記号の問題が全く欠落していることなんでしょう。だから要するに一人よがりになってしまう。そういう経験は記号によって定着しなければ、公的資産にならないのですが、あの壮大な『精神現象学』の知の経験の中で、その問題は本格的に論じられていない。
(略)
浅田 とにかく意識の経験の総体が内面において総括されるから、記号を媒介とした他者とのコミュニケーションが本格的に主題化されることがない。
久野 戦前の思想の最大の欠陥は、どこもかしこも判断論、概念論、知識論はやっているけども、その判断や概念や知識が定着される一般的記号の問題、数学的記号から始まってロマン派の情念的記号に至るまでの記号の問題を正面から考えなかった点でしょう。ぼくなんか、スイスにソシュールという偉い学者がおって、一般記号論を書いておるようだということぐらいしか知らなかった。ぼくの兄事した中井正一は、新しもの好きだから、すぐにソシュールを読んでいましたよ。久野説によると、コミュニケーションでは聞くほうが大切だというが、ソシュールでは話すほうを主に考えておるから、両方を統一するような記号論を集団的レヴェルでやらないとだめだという主張を、中井さんだけは力説していた。他の京都学派の連中は、あれだけ多方面にわたったけれども、三木にしても戸坂にしても、そういう記号論の問題は晩年まで気づかれていないんです。
柄谷 ただ、こういうことはないんでしょうか。カントで言えば、直観と悟性は絶対につながらない。
久野 それは構想力でつなぐわけですね。そしてこの構想力による両方のつなぎ方は、精神の秘儀、理性の秘訣であって、一般的な証明は可能でないと言いますね。
柄谷 ええ、そこに「図式」があるわけです。しかし、カントの場合、直観と悟性はけっしてつながらないということが前提になっています。この統合はたんにイマジナリーなものでしかない。ところが、シェリングは、「知的直観」というものをもってきて根源的に統一してしまう。その点では、ヘーゲルはこのような統合を認めない。そのかわり、弁証法的な展開によって歴史的に統合されるというような形をつくったと思うんです。しかし、ぼくの考えでは、記号が記号として露呈するのは、それが直観と悟性、あるいは個別と普遍を媒介しているようにみえて、たんに想像的にしか媒介していないということがあらわになるときですね。つまり、コミュニケーションにおいてです。(pp.12-14)
カントにおける「構想力」(=想像力)の役割については、ドゥルーズの『カントの批判哲学』を、柄谷の発言に関しては、『世界共和国へ』*3と『探究I』をマークしておく。
直観と悟性――個別と普遍と言ってもいいですが――、それを媒介する構想力や、種(特殊)の論理*2というものが考えられる。もちろんカントが最初に考えた。しかし、カントの力点は、それらを統合することではなくて、統合が想像的でしかないという主張にあるのではないか。彼はいち早くフィヒテを否定しています。統合が想像的でしかないというのは、べつの観点から言えば、われわれのコミュニケーションにおいては、私と汝の対称性は想像的でしかないということですね。もし対称的であるならば、他者との対話は自己対話と等しくなり、それは結局独我論になる。つまり、ドイツ観念論になる。(p.14)
- 作者: ジルドゥルーズ,Gilles Deleuze,國分功一郎
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