AD/HDと早期教育(メモ)

井出草平早期教育を受けた子はAD/HDや発達障害になる?」http://d.hatena.ne.jp/iDES/20090912/1252772533


早期教育で病んだ子どもたちが増えている」という『週刊朝日』の記事*1に引かれた、「われわれの研究所で、0歳児から追跡調査を続けたところ、早期教育を受けた子は、1歳児でもキレやすく、6歳くらいになると、多動性傾向が非常に強く、注意力散漫であることがわかりました」、「今、幼児教室や幼稚園などでなされているIQテストや教育などは、科学的根拠がないものが多い」という澤口俊之*2のコメントに対して、米国の研究*3を参照し、「AD/HDは遺伝子的要因の問題であり、後天的にAD/HDに「なる」ことはない」と反論する。
ただ気をつけなければいけないのは、「早期教育」と「AD/HDや発達障害」を結びつけることの「非科学」性を指摘することができたとしても、そのことと「早期教育」を肯定することとは話が別だということだ。
また、児童精神医学者の古荘純一の発言に対して、


1〜3歳の子どもに他害行為があるのはごく普通のことである。発達障害など関係なくても他害行為を働く児童は珍しくない。穏和でかわいい赤ちゃんをイメージしているからなのかよくわからないが、子どもというのは、本来的に暴力性があるものであって、ここに出されている例は全く問題はない。わざわざ児童精神科に連れてくる親が増えただけの話であろう。

「「発達障害」と診断される、「始終」落ち着きがなく、乱暴な子どもたち」書かれてあるが、発達障害の子どものすべてが多動性を持っていたり、常に乱暴なわけではない。また「常に乱暴なわけではない」がパニックを起こして突然、暴力性を発現させる広汎性発達障害の児童もよくいる。むしろ常時暴力をふるっている発達障害の子どもという方が珍しい。このあたりは記者が発達障害をよく理解していないことが出ている。

なお、

かなり以前のことだが、自閉症はインテリの子どものかかる病気と言われたことがあった。それは、経済的に恵まれている家庭の親たちが我が子の症状に気づき、病院に連れて行った結果、自閉症はインテリの子どものかかる病気と思われてしまったのだ。それがインテリの子育て批判へ、親へ誹謗中傷へと向かったのである。この記事でも同じことがが繰り替えされているように思える。小さいころから早期教育を子どもに与えられる家庭は比較的裕福な層である。そういう層の親は子育てに熱心であるため、我が子のことをよく見ている。よく見ていると、子どもの問題を発見しやすい。そして、本やインターネットなど知的資源や社会的資源を得ることに長けているため、この子どもたちは児童精神科に連れてこられやすい。その結果、教育熱心な親の子どもたちがクローズアップされてしまい問題であるかのように見えてしまうのだ。
という一節は社会学的に重要だろう。というよりも、〈逸脱〉という社会現象が〈逸脱〉的に振る舞うとされる人の問題であるよりも、或る振る舞いに対して〈逸脱〉というレッテルを貼る側の問題であるということは、レイベリング論というか、ベッカー*4の『アウトサイダーズ』以降の〈逸脱の社会学〉の要諦である。また、早期教育産業のターゲットたる「相対的な「社会的孤立」に悩む強迫的に「几帳面で律儀」な親」*5にとっては、早期教育マンセーの情報もアンチ早期教育の情報も、どちらも「脅迫的」な情報として理解されうるということを指摘しておかなければならない(See also 保坂展人『ちょっと待って! 早期教育*6)。
アウトサイダーズ―ラベリング理論とはなにか

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ちょっと待って!早期教育

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保坂氏の本で言及されていたのは主に学齢期以降の効果だったと思う。