承前*1
桐野夏生「日記と戦争」『毎日新聞』2009年8月30日から;
後は、久生十蘭の『従軍日記』、ドナルド・キーンの『日本人の戦争』への言及。
私は、日記を書くことを積極的に推奨された世代だ。夏休みの絵日記は必須の宿題だったし、年末になれば、大人も子供もこぞって、新年のための日記帳を準備した。五年日記、十年日記など、長いスパンの連用日記を好む几帳面な人もいれば、毎年、新しい日記でなければ、新年を迎える気になれないという人もいた。
主婦は家計簿を日記代わりにし、妊娠すれば母子手帳を持たされた。子供たちも、日直や週番日誌を付ける訓練を施され、理科の授業では観察日記を書かされた。仲良しグループやカップルで、交換日記も交わした。
近代の日本では、誰もが日々の出来事やその時の心情を、言葉によって記録することを求められた。飽きやすい人間は三日坊主と嘲られ、継続が良しとされたのである。
個人の日記は、人に見せられない。まして、思春期になれば、秘密が一気に増えるせいで、日記を書くところを見られるのも嫌だし、隠し場所にも苦労する。そんなに心配ならば書かなければいいのだが、心の裡を吐露せねば、日記の甘美さがないのも真実である。
そのうち、隠すことに疲れる。隠したい癖に、どこか他人の目を意識しながら書く自分がいるからである。読者の存在を意識するのは、書いて記録するという行為の本質だからである。それが自分の中にいる他者だとしても。
ところで、日記(の盗み読み)が物語を始動させる映画といえば、『マンマ・ミーア!』。
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