「統治性」を巡ってメモ

承前*1

コロキウム―現代社会学理論・新地平 (No.1(2006年6月))

コロキウム―現代社会学理論・新地平 (No.1(2006年6月))

檜山和也「グローバリゼーションと主権の概念」『コロキアム』1、2006、pp.102-119


このテクストの後半部で、フーコーの「統治性」の議論をグローバル社会における国家の存立問題に応用するHans-Martin Jaegerの「世界世論(world opinion)」*2の議論が紹介されている(pp.112-113)。
「世界世論」は「政治システムにおいて見えるものと見えないものを決定し」、(「ルーマンのシステム理論」が「参照」され)「政治システムの二次的機能として可能性とアカウンタビリティを提供する」(p.112)。Jaegerが採り上げているのは、「国際連盟下での委任統治ジーム」(p.113)。「「世界世論」は19世紀の「文明化」のミッションを引き継ぎつつ、委任統治体制とともに、国際的ガバナンスの形態を例示した」。「発展したネイション」による「植民地を指導、保護する義務」*3。曰く、


彼によれば、19世紀における世界世論は依然として諸国民に共有された、諸国民の世論であった。しかし20世紀の世論は徐々に専門家をも含むようになり、そうして人民の意見のアクチュアルな表明という要素を中和し、国民の境界を超えて、政府その他の主体を含む諸個人からなる世論として提示されるようになった(ibid.*4: 153)。それはもはや国際的コミュニティの民主的コンセンサスではなく、ほとんど捉え難いものになってしまっている。(後略)(ibid.)
また、「統治性」概念をグローバル化の議論に適用しているテクストとして、


M. Dillon “Sovereignty and Governmentality: From the Problematics of the “New World Order” to the Ethical Problematic of the World OrderAlternatives 20-3, 1995, pp.323-67
M. Dillon & Julian Reid “Global Liberal Governance: Biopolitics, Security and War” Millennium 30-1, 2001, pp.41-66
S. Gill “The Global Panopticon? The Neoliberal State, Economic Life, and Democratic Surveillance” Alternatives 20-1, 1995, pp.1-49


が挙げられている(p.116、註11。)。
また、John W. Meyerの議論の紹介(pp.111-112);


John W. Meyer “The World Polity and the Authority of the Nation State” in George M. Thomas, John W. Meyer, Francisco O. Ramirez & John Boli (eds.) Institutional Structure: Constituting State, Society and the Individual, Sage, 1987
John W. Meyer “The Changing Cultural Content of the Nation-State: A World Society Perspective” in George Steinmetz (ed.) State/Culture: State Formation after the Cultural Turn, Cornell University Press, 1999
John W. Meyer , John Boli, George M. Thomas & Francisco O. Ramirez “World Society and the Nation-State” AJS 103, 1997, pp.144-181


曰く、


彼は、根源的な不確実性を背景にして、組織は内外のアクターからの支持を調達するために環境において制度化された「神話」に依拠するという観点から国民国家を分析している。すなわち、根源的な不確実性の条件においては、国民国家にとっての問題は、何が本当に正しいか、ではなく、何が本当に正しいと内外の他者に信じられるか、の問題に他ならない。そしてそのために、国民国家は世界文化において制度化され流布している知識や規則を儀礼的に採用し、それに即して自らを他者に対して「合理化」するようになる。(p.111)
また、「メイヤー達の議論の中では、自身を「合理化」するよう要請されている国家は、いわばつねに自身が「まともな」「信頼に値する」「責任能力のある」国民国家であるということを証明する儀礼的・自己表出実践に絶え間なく晒されている」(p.112)。

*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090325/1238004772 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090328/1238263252

*2:Hans-Martin Jaeger “”World opinion” and the turn to post-sovereign international governance” in Mathias Albert & Lena Hilkermeier (eds.) Observing International Relations: Niklas Luhmann and World Politics, 2004. contractionさん、この本知ってる?

*3:これはJaegerのテクスト(前註を参照)の引用。

*4: 前註を参照。