- 作者: J. Hillis Miller
- 出版社/メーカー: Princeton Univ Pr
- 発売日: 2001/11/01
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James Hillis Miller Othersの第4章”Anthony Trollope: Ideology as Other in Marion Fay”。
ここでは、19世紀英国の作家Anthony Trollopeの小説Marion Fayが論じられている。
Anthony Trollopeについては、例えば
The Trollope Society
http://www.trollopesociety.org/
Trollope: A Web Site Devoted to Anthony Trollope and His Contemporaries
http://www.trollope.org/
Anthony Trollope
http://www.anthonytrollope.com/
また、Anthony Trollopeのテクストの多くはGutenberg Projectによってディジタル化されており、オンラインで読むことができる;
http://www.gutenberg.org/browse/authors/t#a324
ここで取り上げるのは、大英帝国と郵便の話。Anthony Trollopeの小説の中での手紙の交換の重要性に触れながら、彼が郵便屋だったことに言及している。すなわち、British Post Officeに長い間勤めており、そのことによって、「効率的な郵便システムが遠く離れた人々をコミュニケーションさせ、コミュニティ感覚を日常的に顔を合わせる人たちを超えて拡張する仕方に敏感」になった。例えば、1851年から53年まで、彼はイングランドの西部農村における郵便ネットワークの構築に携わっていた(p.91)。それを踏まえて、Miller曰く、
さて、山根伸洋氏(「帝国」)は、ベネディクト・アンダーソンが『想像の共同体』でナショナリズムの条件としての「出版資本主義」と「近代郵便制度」の密接な関連を指摘しているにも拘わらず、直接の「分析の対象からはずし与件として扱ってしまった」(p.87)ことを指摘している。山根氏の論を少しメモしておく;
Just as today it is the ambition of those in charge of the Internet, the World Wide Web, and the “Information Superhighway” to “wire” everyone in the world so everyone may be put in instantaneous touch with everyone else, so in Victorian England the postal system was one of the most powerful means for creating national unity as well as for expanding and holding together the British Empire. Trollope’s trips to the West Indies, South Africa, Australia, New Zealand, and North America, all of which resulted in travel books, were at least some degree official. They were undertaken in part on behalf of the British Post Office by an official or sometime official of it. Trollope’s interest was in expanding the postal system and making it more efficient as a way of organizing the British Empire. The British Empire was a concomitant of the postal system and the telegraph, just as the new regime of transnational telecommunications is today weakening the sovereignty of nation states. (…) (pp.91-92)
近代郵便制度を論じるということは、すなわち近代国家制度をささえる交通基盤それ自体の近代化をも含めて論じるということにほかならず、単に単一と想定される国民国家内部の情報空間形成をめぐる議論にとどまるものではない。近代郵便線路網は、鉄道・道路・汽船航路等々、およそあらゆる交通基盤を全域的に被覆し統制する、と同時に、国民的同一性の担保となる出版市場を構成的に規定していく一つの制度的基盤としてあるといえるだろう。近代郵便制度とは国家全域および植民地を切り結ぶあらゆる交通経路を被覆する、国家的近代の地理的スケールに対応した大規模かつ基底的な力を持つ社会編成秩序なのであり、その観点において記述・説明があたえられなくてはならない。また国家的近代をささえる不可欠の制度的基盤として近代郵便制度があるがゆえに、近代国家を標榜する国家群は、書状・物荷逓送業務としての郵便事業を〈官営独占〉すなわち国家による独占的経営とするのであり、国家的領域の外部との逓送業務の往復は、国家間の交渉において、その取り決めがなされるのだ。
また、近代郵便制度を特徴づける「全国一律料金」制度とは、「国家主権」の「作用」する領域を地理的に確定する戦略とも重なっていた。国家主権と等価なものとして郵便主権が確認され、それ故に、郵便線路の地理的拡大は、近代国家の国権の及ぶ範囲と重なりあっていたのだ。したがって、近代国家構築の過程にみられる「国家の版図」確定という課題は、「相互に浸透しあっていた」コンタクトゾーンとしての「周辺領域」を国家の内部へ再編的に統合していくことを意味し、その際に、郵便線路の拡張の持つ政治的含意は絶対に見落とすことはできない。特に明治初期日本において、第一次琉球処分以降、日清両属体制にあった琉球藩が日本の「版図」の一部へと組み込まれる際に、琉球の地において最初に実施された明治政府の施策が「郵便線路の琉球への拡張と汽船定期航路の開通」であったことの持つ「侵略」と「内的植民地化」の問題、釜山への国内電信網の延伸等々の事実は、いくら強調してもしすぎることはないだろう。近代郵便制度が果たす侵略−植民地経営に対する露骨なまでの「貢献」をもって、ストレートに近代国家の〈帝国〉としての側面を確認することができるだろう。(p.88)
想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (社会科学の冒険)
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2005年にみんなが郵政民営化に浮かれていたとき、ネーションの統合や想像の問題として思考していた人は、私も含めてあまりいなかったような気がする。
ネーションの想像についてはhttp://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080721/1216642814も参照のこと。また、「郵便制度」を、それも反−国家的な「郵便制度」を描いた小説として、トマス・ピンチョンの『競売ナンバー49の叫び(The Crying of Lot 49)』をマークしておかなければならないだろう。
- 作者: トマス・ピンチョン,志村正雄,Thomas Pynchon
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The Crying of Lot 49 (Picador Books)
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