柴田寿子「古典をめぐる思想史学の冒険」『未来』499、2008、pp.7-15
ここから、
これを改めて書き写しながら、先日基礎研で報告したときに*2、アレントにおける「原理」の「反復」の議論とベンヤミンとの関係を言及し損ねたと気付いた。勿論、事前に気付いたとしても、それを組み込む余裕はなかっただろうとということはあるのだが。アレント=ベンヤミンの歴史観の重なりということでは、矢野久美子『ハンナ・アーレント、あるいは政治的思考の場所』もマークしておこう。
そのころ私の気持ちを捉えた形象は、過去の廃墟の山を見すえる天使が現在へと強風で吹き寄せられる、ベンヤミンの「根源史Urgeschichte」イメージであり、彼にとっては受難と救済の形象であったものが、私にはアクチュアルな再生のイメージを与えた。ベンヤミンは、現在性Aktualitatから過去を読解することによって、現在と過去とが相互に形作る「星座的配置Konstellation」を見出そうとするが、それは起源から現在に至る単線的なヒストリーを再認することではなく、現在のわれわれの認識そのものを変容させる力をもつ認識のあり方を意味している(「歴史哲学テーゼ」*1)。思想史を学んでいると、「瓦礫の山」にしかみえない過去から天使が突然運ばれたかのような魅惑を感じる時がある。言語も地域も時代も違う歴史のなかに魅力的な問いを立てアクチュアリティが再生されること、強固に立ちはだかる現在の政治社会のシステムを超え出るような長いスパンの批判的視線をもつこと、そしてそれによって現在の私の経験的世界が違って見えることが、なぜかしっかりと繋がるような次元が存在するのであり、それを学問的に合理的な議論として表現できるのは、思想史だけではないかと思うようになった。(p.10)

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という箇所をメモしてみる。
そもそも一六四八年のウェストファリア条約による近代主権国家体制の成立などという政治思想の図式は、かなり偏った見方である。一七世紀のヨーロッパ大陸は、自由都市、貴族領、大司教領、飛び地のような宗教的共同体や統制不可能な地域、君主国家、国家連合、帝国など多様な政治体が重層的に混在する多元的世界であり、さまざまな諸形式の政治体が、経済関係と法関係の共有によって多元的な連結を展開するという、アルトゥジウスの連合理論に近いものだったろう。しかし一九〜二〇世紀に主流になったのは、一元的な領域主権国家とそれをベースにした国際関係であり、日本もオランダからシフトして大国路線を選んだ様子は、田中彰氏の『小国主義』(岩波新書)によく描かれている。(p.11)

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*1:AKA「歴史の概念について」