『落葉帰根』

暫く前に張楊*1の『落葉帰根』*2をようやく観た。これは去年のお正月映画。
東北人の農民である老趙(趙本山)は広東省深圳に出稼ぎに来てもう5年になるが、或る日民工仲間で重慶*3出身の老王と酒を飲んでいると、老王が死んでしまう。老趙は老王の遺体を担いで故郷に送り届け、葬ってやることを決意する。深圳から重慶までのロード・ムーヴィ。その旅に付き合いながら、私たちは中国社会の様々な断片を見ることになる。例えば、バス強盗、長距離トラック運転手の世界、自転車に乗ってチベットを目指すバックパッカー青年(『太陽の少年(陽光燦爛的日子)』の夏雨が演じている)、田舎町の怪しげな床屋(何故か店の奥にベッドがある)、闇の売血所、ホームレス救済センター等々。深圳から重慶を目指すのに、何故か先ず昆明行きのバスに老王を酔っ払いに見せかけて乗り込むのだが、映画は主に重慶から離れた雲南省を中心に展開し、チベット近くまで行ってしまう。四川省にやっと近づいたら、山道が土石流のために通行止めになっており、その中を死体を担いで老趙は歩いていくが、遂に力尽きて倒れてしまい、警察に保護される。警官(孫海英)が付き添って、やっと重慶に辿り着くが、三峡ダム建設のため、家族は既に湖北省に移住していたというところで、終わりとなる。三峡に回帰する(しそこなった)人の物語であるこの映画は、或る意味で、三峡に流れ着いた人の物語である賈樟柯の『三峡好人(長江哀歌)』*4と対になっているのかもしれない。また、映画の中に農村の葬式が出てきて、生きているのに死んでいることになっている爺さんが出てくるが、この爺さんと死んでいるのに生きていることにされている老王とは対になっている。

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長江哀歌 (ちょうこうエレジー) [DVD]

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死体を担いで旅をするという設定は漢族(特に漢族農民)の土葬に対する拘りを前提にしないと理解しにくいだろう*5。現在中国の都市部では(日本と同様に)公衆衛生上の理由から土葬が禁止されているが、10年くらい前に、土葬が禁止される前に死にたいということで、老人の自殺が相次いだことがあった。この映画でも、老王は結局は火葬されてしまう。
ところで、老趙は主にヒッチ・ハイクで移動するのだが、反応は死体を気持ち悪がって拒否するか快く載せるかのどちらかである。怪しんで警察に通報するという反応がなかったのも不思議。
大きな重機用のタイヤに老王を押し込んでそれを転がすという場面があり、これはポスターでも使われているが、「マダム・チャン」さんによると、このオリジナルは手塚治虫であるらしい*6。あと、老王の死体を演じ続けた人のクレディットがないのだが、実は撮影ティームのドライヴァーであるそうな*7